Nagano Morita, a Division of Prager Metis CPAs
NAGANO MORITAは、プレーガー メティス米国会計事務所の日系部門です。
会計税務情報 2026年10月27日号
Nagano Morita, a division of Prager Metis
Amazonを代表とするE-commerceの普及により、日本企業が米国に拠点を持たず、大規模な米国販売を行うことが容易になっている。それでは、米国に会社も従業員もない日本法人が、年間1億ドルを米国で販売した場合でも、米国法人税は発生しないのであろうか。今月は、E-commerceによる米国販売について、日米租税条約によるPE課税の考え方、PEがなくても残る連邦・州の申告義務、さらに香港・台湾法人との違いについて整理したい。
例えば、日本法人A社が、米国に子会社、事務所、店舗および従業員を持たず、Amazon FBAを利用して米国市場へ商品を販売しているとする。商品の価格設定や販売方針などの主要な意思決定は日本本社で行い、米国内の商品はAmazonの倉庫に保管され、そこから米国顧客へ発送されている。そして、A社の米国向け年間売上高は1億ドルである。これだけの売上があれば、当然、米国でも法人税が課されるように思える。しかし、米国連邦税は売上金額だけで決まるものではないのである。
外国法人の米国連邦税では、まず米国国内法上、U.S. Trade or Business(USTB:米国内事業活動)を行っているかを検討し、USTBがある場合には、その事業活動に関連する所得がEffectively Connected Income(ECI:米国事業関連所得)となるかを検討する。Amazon FBAを利用して米国内に在庫を保有し、継続的に米国顧客へ販売している場合にも、在庫、物流体制、販売契約、商品の所有権移転、Amazonその他のサービス提供者の活動などを踏まえ、USTBおよびECIを検討する必要がある。
しかし、日本法人A社の場合には、そこで分析は終わらない。日米租税条約があるからである。条約の適用要件を満たす日本法人については、米国内にPermanent Establishment(PE:恒久的施設)が存在しなければ、事業利益に対する米国連邦所得税が課されない可能性がある。したがって、A社が米国向けに1億ドルを販売していたとしても、その売上金額だけを理由としてPEが成立するわけではないのである。PEの有無を判断するうえで重要なのは、売上規模ではなく、A社が米国内で実際にどのような活動を行っているかである。
もっとも、ここで「1億ドル売ってもPEがないのであれば問題ない」と考えるのは早計である。1億ドル規模の米国販売となれば、PEがないというポジションの経済的重要性も大きくなる。仮にIRSの調査対象となった場合には、これだけ大規模な米国ビジネスを本当に米国内のPEなしで行っているのかという観点から、米国内の活動実態について、詳細な確認を受けるリスクを考えておく必要がある。
そこで重要になるのが、米国内の実際の事業活動である。例えば、A社が米国内に営業、マーケティング、販売支援、品質管理、物流管理などを行う担当者を置いていないか、米国内の者がA社に代わって価格や販売条件を交渉していないか、契約締結に向けて重要な役割を継続的に果たしていないか、といった事実関係を確認する必要がある。
倉庫については、日米租税条約において、商品を保管、展示または引き渡すことのみを目的とする施設の使用や在庫の保有を、PEから除外する規定がある。したがって、米国内の在庫や倉庫があるという事実だけで、租税条約上のPEが成立するわけでもないのである。
実際のケースとしては、E-commerceの事業規模が大きくなると、当初は単純なオンライン販売であったものに、米国内のマーケティング、販売支援、返品処理、品質管理などの機能が徐々に加わっていくこともある。結果として、事業開始時には存在しなかったPEリスクが、その後の事業拡大によって生じる可能性にも注意するべきである。したがって、A社のような大規模なE-commerce事業では、単に「PEはない」と結論づけるだけでは十分ではないとも考えられる。なぜPEがないのかを、契約関係、物流体制、人的活動、意思決定プロセスなどの具体的な事実に基づいて説明できるようにしておくことが重要である。
さらに注意したいのは、「PEがない」ことと「米国で申告義務がない」ことは同じではないという点である。米国国内法上USTBに該当する可能性がある一方、日米租税条約上はPEがなく、米国で事業利益に対する連邦所得税が発生しない、というポジションを採用する場合には、Protective Form 1120-Fを提出することが求められている。外国法人自身は米国で課税される事業利益はないと判断していても、後日IRSがUSTBやECIの存在を主張する可能性があるからである。
そのような場合に備え、申告上の権利保護を確保することがProtective Form 1120-Fを提出する理由の一つとなる。また、日米租税条約に基づいて米国の課税を制限するTreaty-Based Return Positionについての開示が必要となる場合には、Form 8833による開示も必要となる場合がある。
もちろん、日本法人だからという理由だけで自動的に日米租税条約の恩恵を受けられるわけではない。日米租税条約上の居住者要件に加え、Limitation on Benefits(LOB)条項などを含む条約適格性についても確認する必要がある。つまり、A社について日米租税条約上PEがないという結論になったとしても、「連邦法人所得税がゼロ」=「連邦申告もゼロ」ではないのである。
ここまでが連邦税の話である。しかし、E-commerceではもう一つ忘れてはならない問題がある。それは州税である。日米租税条約によってA社に米国連邦法人所得税が課されないとしても、それによって州法人所得税や事業税、Sales & Use Taxまで自動的になくなるわけではない。州税では、連邦税とは別にNexusを検討する必要があるからである。
例えばAmazon FBAでは、A社の商品がAmazonによって複数州の倉庫に保管されることがある。このような在庫はPhysical Presence Nexusを検討するうえで重要となる。また、州によっては物理的な事務所や従業員がなくても、州内売上等を基準とするEconomic NexusやFactor Presenceのルールが適用される場合がある。その結果、State Corporate Income Tax、Franchise Tax、Gross Receipts Taxその他のBusiness Taxについて、州レベルの申告義務が生じる可能性がある。
Sales & Use Taxについても別途検討が必要である。AmazonなどのMarketplaceでは、Marketplace Facilitator制度によりAmazon側がSales Taxを徴収・納付する場合がある。しかし、それだけをもって、販売者であるA社のすべての州税上の登録・申告義務がなくなるとは限らない。
したがって、A社については、
日米租税条約上PEなし → 連邦法人所得税なし
という結論になる一方で、
州税上Nexusあり → State Filingあり
ということは十分にあり得るのである。
つまり、E-commerceの米国税務では、連邦税におけるPEと、州税におけるNexusを明確に分けて考える必要がある。
ここまで見ると、日米租税条約が日本法人にとってどのような意味を持つのかが分かってくる。この点は、A社と全く同じビジネスを香港法人や台湾法人が行った場合と比較すると、さらに分かりやすいと言える。
例えば、香港法人B社がA社と同じ商品を、同じAmazon FBAを利用して、同じように米国顧客へ年間1億ドル販売しているとする。日本法人A社のケースでは、米国国内法上のUSTB・ECIを検討した後、条約適格性を満たせば日米租税条約上のPEを検討することができる。そしてPEがなければ、事業利益に対する米国連邦所得税が制限される可能性がある。これに対して香港法人B社については、日本法人と同じ包括的所得税条約上のPE保護を前提として分析することはできない。したがって、米国国内法上USTBがあり、その販売利益がECIとなれば、Form 1120-Fを提出し、米国連邦法人所得税の対象となる可能性がある。さらに事実関係によってはBranch Profits Taxについても検討する必要がある。
台湾法人についても、現時点では米国との間に日本と同様の包括的な所得税条約はないため、米国国内法上のUSTBとECIの分析が特に重要となる。なお、米台間では二重課税軽減に向けた制度整備が議論されているため、実際の申告年度に適用される制度を確認する必要がある。
つまり、商品も、販売方法も、Amazon FBAも、そして年間1億ドルという売上規模も同じであるのに、販売主体が日本法人なのか、香港・台湾法人なのかによって、米国連邦税の結果が異なる可能性があるのである。E-commerceによる米国進出では、どの商品をどのように販売するかだけではなく、どの国・地域の法人が販売主体となるのかも重要な税務上の検討事項となる。
E-commerceによる米国販売では、売上規模だけでPEの有無が決まるわけではない。日米租税条約の適用要件を満たす日本法人であれば、年間1億ドルを米国で販売していたとしても、PEがなく、事業利益に対する米国連邦所得税が、課されない可能性がある。しかし、「PEなし」=「米国申告なし」ではない。 連邦ではProtective Form 1120-FやForm 8833、州ではBusiness TaxやSales & Use Taxについて、それぞれ申告義務を検討する必要がある。また、同じE-commerceでも、販売主体が香港法人や台湾法人であれば、日本法人と同じ条約上のPE保護を前提とすることはできず、米国税務の結果が異なる可能性がある。
結局、E-commerceの米国税務で重要なのは、「いくら売ったか」だけではなく、「誰が、米国で、どのように売っているのか」である。1億ドル売ってもPEがない可能性はある。しかし、売上規模が大きくなればなるほど、「なぜPEがないのか」を具体的な事実に基づいて説明できることが重要となるのである。
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