Nagano Morita, a Division of Prager Metis CPAs
NAGANO MORITAは、プレーガー メティス米国会計事務所の日系部門です。
会計税務情報 2026年2月23日号
Nagano Morita, a division of Prager Metis
前回のニュースレターでは、トランプ税制 One Big Beautiful Bill Act(OBBBA) における個人所得税改正を取り上げた。今回は、そのもう一つの柱である法人所得税改正について解説する。OBBBAでは、連邦法人税率21%は維持されており、表面的には大きな増税も減税も見られない。しかしながら、控除制度、研究開発費の取扱い、利子費用控除、さらには国際課税制度に対する構造的な見直しが行われている。その影響は、日系企業の米国事業における実効税率、キャッシュフロー、さらには投資判断にまで及ぶ可能性がある。本稿では、日系企業の米国子会社および日本本社が押さえておくべき主要ポイントを整理する。
連邦法人税率21%は、第一次トランプ政権下で導入された象徴的な税率であり、今回も維持された。一見すると増減税はないように見えるが、実務上は必ずしもそうではない。名目税率が不変であっても、課税所得の算定方法が変われば、実効税率や税負担の発生時期は変動する。
今回の改正はまさにその点に焦点が当てられている。特に、特別償却制度の見直し、米国内R&D費用の即時損金化の復活、利子費用控除制限の緩和、そして国際税務制度の再設計は、企業の税務ポジションを大きく左右し得る。
1.Bonus Depreciation(IRC §168(k))
第一次トランプ政権下で成立した2017年税制改正(Tax Cuts and Jobs Act:以下TCJA)では、原則として2017年9月27日以降かつ2023年1月1日より前に取得した一定の適格事業用資産について、100%即時償却が認められていた。その後は段階的に縮小され、2025年は40%、2026年は20%のみ特別償却が認められる予定であった。今回の改正では、2025年1月19日以降に取得した適格事業用資産について、100%特別償却が恒久化されている。
2.IRC §179 即時費用化
一定の減価償却資産について、2024年時点では即時償却の限度額が1,220,000ドル、資産取得額が3,050,000ドルを超えると超過分に応じて限度額が減額されていた。本改正により、限度額は2,500,000ドルへ、減額開始基準額は4,000,000ドルへと引き上げられた。これらの金額には、2026年以降のインフレ調整も組み込まれている。
本改正は、企業の設備投資を明確に後押しする内容である。また、§179の限度額は法人単体ではなく、連結グループ全体で適用される点に留意が必要である。したがって、今回の限度額引き上げは、グループ内での生産拠点や設備保有主体の見直し余地を生み、日本本社側の連結税効果会計(繰延税金資産・負債の再測定)にも影響を与える可能性がある。
TCJA改正により、2022年以降、研究開発費(R&D)は資産計上が義務付けられ、米国内発生分は5年、国外発生分は15年で償却することとされていた。この義務化は、多くの企業に税負担の前倒しをもたらした。今回のOBBBAでは、2025年以降開始事業年度について、国内R&D費用の即時損金化が再び選択可能となった。さらに、2022年から2024年分として既に資産計上されている未償却残高についても、一定の条件のもとで前倒し償却が認められている。
この改正は、米国「内」で研究開発を行うインセンティブを明確に強化するものである。日系企業にとっては、米国子会社を研究開発拠点として位置づける戦略、スタートアップ投資、ソフトウェア開発費の税務処理などについて、改めて検討する余地が生じる。
なお、米国「外」で発生するR&D費用については、引き続き15年償却が義務付けられている点に留意が必要である。
利子費用控除制限(IRC §163(j))については、控除限度が調整課税所得の30%である点は維持されたが、その計算基礎がEBIT (Earnings Before Interest & Taxes)からEBITDA (Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation & Amortization)へと変更された。すなわち、減価償却費が調整課税所得に加算(Added Back)されることとなり、設備投資の大きい企業にとっては実質的な緩和となる。製造業を中心とする日系企業にとっては、親会社からの借入や米国子会社における負債活用戦略を再検討する余地が広がったと言える。
なお、かつての「過少資本税制(旧163(j))」は、主に海外関連会社への利息支払いを対象とする規定であったが、TCJAにより現在の163(j)へ刷新され、借入先を問わない全社一律の制限へと変更されている。この点も改めて確認しておきたい。
OBBBAでは、TCJAで導入されたGILTI・FDII・BEAT等の国際税務制度についても見直しが行われた。ここでは、主要ポイントのみを整理する。
1.FDII (Foreign-Derived Intangible Income) → FDDEI (Foreign-Derived Deduction-Eligible Income)
米国内法人に輸出インセンティブを与える控除制度である。従来のFDII制度では、外国稼得控除対象額から、適格事業資産投資(QBAI: Qualified Business Asset Investment)の10%を引いた後に特別控除率を適用していた。今回の改正では、このQBAI控除が廃止され、それに伴い制度名称もFDDEIへ変更されている。また、特別控除率は37.5%から33.34%へ引き下げられるものの、実効税率は概ね13.125%から14%へ上昇すると予想されている。
2.GILTI (Global Intangible Low-Taxed Income) → NCTI (Net CFC Tested Income)
米国の海外子会社所得を対象とする課税制度、とくにlow-taxed foreign earningsをターゲットとする課税制度である。従来のGILTI計算では、海外子会社のtested incomeからQBAI x 10%を控除していた(残額がIntangible Asset Incomeと見なされる)。今回の改正により、QBAI控除が廃止され、基本的に海外子会社所得の全額が課税対象となる。課税名称もNCTIへ変更されている。また特別控除率は、将来37.5%へ引き下げ予定であったものが40%へ固定された(つまり課税所得の60%が法人税率21%で課税される)。さらに外国税額控除の対象となる外国税クレジット率は、80%から90%へ引き上げられている。
OBBBAによる法人税改正は、税率変更による単純な増減税ではない。控除制度、インセンティブ設計、国際課税ルールの再調整を通じて、企業行動に影響を与える構造的改正である。先日発表された「対米投資第一号案件」などからも、米国内製造業支援、対米投資促進、雇用創出を重視する政策姿勢が色濃く表れている。こうした流れを踏まえると、日系企業に求められるのは、米国子会社単体の税額最適化ではなく、連結ベースでの実効税率、投資回収期間、国際税務ポジションを俯瞰したうえで、事業投資および税務戦略を見直していくことが肝要であろう。
<本ニュースレターは、米国における一般的な動向や情報をご案内する目的で配信している。具体的なご質問やアドバイス等は専門家に直接ご相談下さい。>