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NAGANO MORITAは、プレーガー メティス米国会計事務所の日系部門です。

米国個人所得税 2025年度アップデート

2025年度(2026年提出)の米国個人所得税は、2025年7月に成立したトランプ税制 One Big Beautiful Bill Act(OBBBA)が初めて適用される年となる。今回の改正は、連邦税の税率構造そのものに大きな変更はないものの、標準控除や各種特別控除の拡充により、多くの納税者にとって実質的な税負担が軽減される可能性が高い年と位置づけられる。本稿では、日系企業関係者および米国在住日本人個人にとって、2025年度申告において実務上押さえておくべき主要ポイントを整理する。

A.税率構造の概要

2025年分の連邦個人所得税率は、従来どおり7段階の累進税率(10%~37%)が維持されている。各所得区分にはインフレ調整が行われており、名目所得が増加しても、必ずしも高い税率帯に直ちに移行するわけではない。最高税率37%は、単身者で課税所得約62万ドル超、夫婦共同申告で約75万ドル超に適用される。税率は「全所得に一律適用されるものではなく、区分ごとに累進的に課税される」点に留意が必要である。

B.標準控除の引上げと高齢者向け措置

2025年度の標準控除(Standard Deduction)額は以下のとおりである。

単身者・別居申告者:15,750ドル
夫婦共同申告者:31,500ドル

これに加え、65歳以上の納税者には追加控除が認められている。2025年から2028年までの期間限定措置として、高齢者向けの特別控除(一人6,000ドル)が上乗せされた。この結果、一定の所得水準以下では、課税所得が大幅に圧縮される可能性がある。リタイア後の年金収入や投資収入を主とする納税者にとっては、「所得はあるが税額が発生しない、あるいは極めて限定的となる」ケースも現実的に想定される。例えば、高齢期に入った日系駐在員や永住者にとっては、収入の受け取り方次第で税負担が大きく変わる局面に入ったと言える。

C.州・地方税(SALT)控除上限の見直し

米国個人所得税では、Standard Deduction(標準控除)と Itemized Deduction(項目別控除)のいずれか有利な方を選択できる。TCJA導入(2018年)以降、項目別控除計算における State and Local Tax(SALT)控除が10,000ドルに制限されていたため、項目別控除を選択する意味が実は薄れていた。しかし、2025年度からは、このSALT控除上限が夫婦合算で10,000ドル → 40,000ドルと大幅に引き上げられたのである。

カリフォルニア州やニューヨーク州など高税率州の納税者にとっては嬉しいニュースである。SALT控除額が大きくなるため、実質的な恩恵が生じる可能性が高くなったからだ。具体的には、Form 1040 の Schedule A(Itemized Deductions)における地方税や固定資産税(特に持ち家の場合)の記載額や、その支払いタイミングが、節税に直結する。もっとも、高所得者層には段階的な制限が設けられており、すべての納税者が一律に恩恵を受けられるわけではない。項目別控除が有利かどうかは、事前の試算なしには判断できない年となる。

D.新設・拡充された個別控除

2025年度では、特定の所得形態や支出に着目した新たな控除が導入・拡充されている。主な内容は以下のとおりである。

<チップ収入の非課税措置>:最大25,000ドルまで非課税(W-2での報告が必要)
<残業手当の非課税措置>:最大12,500ドル(単身)/25,000ドル(夫婦)まで非課税
<米国製自動車ローン利息の控除>:2025年以降に取得したローンが対象

これらはいずれも恒久措置ではなく、原則として期間限定である(チップ・残業代は2025〜2028年)。また、適用には所得制限や職種・契約形態などの細かな要件が存在するため、「控除があるから非課税」と短絡的に判断することは避けるべきである。

E.子供税額控除(Child Tax Credit)

子供税額控除は、一人当たり2,000ドルから最大2,200ドルへ増額されている。扶養家族を有する世帯では、標準控除や項目別控除との組み合わせにより、税額が大幅に圧縮されるケースが見受けられる。特に若い共働き世帯や片働きの子持ち世帯において、控除の積み上げ効果が顕著に表れる。

F.実務上の留意点

2025年度において特に注意すべき点として、連邦税の還付小切手が原則廃止されたことが挙げられる。影響が大きいのは、すでに帰国した元駐在員の帰国年の米国個人申告書を提出するケースである。従来は、還付小切手を会社口座に振り込むなど柔軟な対応が可能であった。しかし、今後はDirect Depositが可能な本人名義の米国口座を一定期間維持する必要が生じる。また、高齢者など小切手還付に慣れている納税者にとっても、銀行口座へのDirect Depositへの切り替えが必須となる。

IRSへの納税方法についても、現時点では小切手が残されているものの、将来的には電子化へ移行する方針がIRSより示されている。なお、IRSはペーパー申告を可能としているが、還付の電子化が進む中、実務上はe-fileが前提になりつつある。

G.まとめ

2025年度の米国個人所得税は、「大幅な増税・減税」というよりも、控除拡充を通じて納税者ごとの差がより明確に表れる年であるとも言える。特にチップ収入、残業代の多い世帯、扶養家族を有する世帯、高税率州居住者、そしてリタイア期に入った納税者にとっては、申告内容次第で結果が大きく異なる。日系企業関係者や米国在住日本人個人においては、日米の税務区分や居住区分、所得構造を整理した上で早めに試算を行い、還付を想定する場合には受け皿となる銀行口座の準備まで含めた対応が、2025年度申告において重要な影響を与えると言える。

<本ニュースレターは、米国における一般的な動向や情報をご案内する目的で配信している。具体的なご質問やアドバイス等は専門家に直接ご相談下さい。>