Nagano Morita, a Division of Prager Metis CPAs
NAGANO MORITAは、プレーガー メティス米国会計事務所の日系部門です。
会計税務情報 2025年11月24日号
Nagano Morita, a division of Prager Metis
米国の州税申告制度、とりわけ「ユニタリー・タックス」をめぐるルールは、ここ数年で大きく変化している。2025年に入り、ニューヨーク州やニュージャージー州の税務当局は、州境を跨ぐマルチステート企業グループに対して、ユニタリー・タックスの対象か否かの調査を強化している。米国における多州展開企業や日米間をまたぐ多国籍企業にとっては、州税コンプライアンスとプランニングの重要性が年々高まっている。本ニュースレターでは、ユニタリー・タックスの基本概念と最新動向、そして日系企業にとっての実務的インパクトを概観する。
ユニタリー・タックス(Unitary Tax)とは、米国において複数の関連事業体が管理面・機能面で一体性を持つ場合、単一の事業体(ユニタリー・ビジネス)として州税所得を計算するという「概念」である(法律上の正式名称ではない)。各州は、過去の判例・判決をベースとした、ユニタリー・ビジネスの「概念」をもと、グループ全体の所得を合算し、売上・給与・資産などの按分式により州別課税ベースを割り振る。こうした合算・按分式による申告方法を「コンバインド申告(Combined Tax Return)」と呼ぶ。
主な特徴は以下のとおりである。
・単一の事業体(Unitary Business)の判断は、各州レベルの判例・判決に委ねられている。一般的には、集中管理(centralization of management)、機能統合(functional integration)、規模の経済性(economies of scale)を基準としている。
・コンバインド申告は、連結申告と混同されやすい。連結申告(Consolidated Tax Return)は連邦レベルの申告方法であるのに対し、コンバインド申告は州レベルの申告方法である。
具体例として、東京に本社を置くA社が米国カリフォルニア州に100%出資のメーカーB社を持ち、さらに同州に100%出資の貿易会社C社を持つケースを考える。両社は共通の親会社として日本のA社を有する。B社とC社は連邦税務上は連結申告の対象ではないが、CA州申告上はユニタリービジネスのテストを行い、単一事業体と判断されれば、別法人であってもCA州税申告上は一社のように扱われ、コンバインド申告を行うことになる。
日本では法人税は国(国税庁)が一括管理しているのに対して、アメリカでは連邦および各州レベルで、つまり二層構造的に法人税が管理されている。したがって、我々日本人にとっては、この米国ユニタリー・タックスの法人税制度は、馴染みの薄い考え方とも言える。
1. コンバインド申告義務化の拡大
歴史的には、多くの州で個別会社申告が一般的であった。しかし現在は、課税ベース確保の観点からコンバインド申告を義務化する州が増加している。2025年10月の調査では、全米50州のうち28州が義務化を採用している。一部の州では、ユニタリーの考え方を米国内(Water’s-Edge)からWorldwide方式へ拡大し、合算対象範囲を広げる動きも見られる。
<ユニタリー・タックス導入州(例)>カリフォルニア州、ニューヨーク州、ニュージャージー州、イリノイ州、マサチューセッツ州
<個別申告州(例)>フロリダ州、ジョージア州、アラバマ州、テネシー州、ペンシルベニア州、バージニア州
2. 「即時ユニタリー」概念の浸透
買収年度における一体性の判断をめぐり、近年は「買収初年度からユニタリー関係にある」と推定する傾向が強まっている。従来のように「統合作業が進むまでユニタリーではない」と扱う州は減少しており、日系企業の米国買収においては初年度から州税影響を精査する必要性が高まっている。
3. 按分方法の単純化
ユニタリー・タックスでは、所得を合算した後の州別按分方法が重要となる。従来は売上・資産・給与の3要素(3-factor apportionment)を採用する州が多かったが、近年は売上のみを基準とする「Single Sales Factor」へ収斂する傾向が強まっている。これにより、按分方法はより単純化している。
日系企業が米国子会社を買収・再編する場合、買収初年度からユニタリー扱いとなる可能性が高まっている。これにより、売上按分率の急変が生じ、州別実効税負担が大きく変動する場合がある。またコンバインド申告となると、グループ内取引は相殺除去され、外部売上が按分式に直接反映されるため、税負担構造が大きく変化する。特にカリフォルニア州に所在する日系企業は、Single Sales Factorにより売上比率が税負担の決定要因となる。さらに州によっては外国関連会社を合算対象とする場合があり、例えばカリフォルニア州ではWater’s-Edge選択(外国企業をユニタリー・ビジネスから除外する方式)に基づきForm 100-WEを初年度に提出する必要がある。複数の企業グループで展開する日系企業にとっては、こうしたユニタリー・タックスの状況と変化を確認しながら米国事業を進めることが重要となる。
<本ニュースレターは、米国における一般的な動向や情報をご案内する目的で配信している。具体的なご質問やアドバイス等は専門家に直接ご相談下さい。>