Nagano Morita, a Division of Prager Metis CPAs
NAGANO MORITAは、プレーガー メティス米国会計事務所の日系部門です。
会計税務情報 2025年6月20日号
Nagano Morita, a division of Prager Metis
第二期トランプ税制法の素案が現れた。その名前もOne Big Beautiful Bill Actである。先月5月下旬に僅差で下院議会を通過し、上院議会で審議されている。今回の法案で最も物議を醸しているのがIRC Section 899による「報復税(Retaliatory Tax)」だ。平ったく言うと、トランプ関税の課税版とも言える。
すなわち米国が、自国に「不公平な課税(Unfair Foreign Tax)」をしていると認定した国に帰属する米国関連企業に対して追加税を課す、という内容である。米国進出日系企業にとっては、頭痛の種が増える。
今回は、このトランプ税制法案なかで日系企業に大きなインパクトを与える可能性のあるSection 899「報復税」について考察する。
Section 899立案の背景としては、現在進められている国際的な課税枠組みに対するトランプ政権の反発だと報じられている。その国際的な課税枠組みとは「デジタルサービス税(DST)」や「軽課税所得ルール(UTPR)」等と呼ばれる、欧州やOECD諸国間で進められている新課税ルールである。
これら新課税ルールは、国境を超えるオンライン市場におけるデジタル・サービスへの課税、国際企業グループの一部が低税率国に存在する場合における追加課税など、時代に即したタックス制度である。
ヨーロッパ諸国の大半、カナダ、トルコ、インド、韓国、そして日本などは、こうした新課税ルールを導入しつつあるのが現状だ。米国企業のみをターゲットにした課税制度ではないものの、トランプ政権は、これを米国ハイテック企業中心にダメージを与えるものと捉えて、その「報復(Retaliate)」として今回Section 899を立案したと報じられている。
Section 899「報復税」はどのような内容か。Section 899は、米国政府から見て「不公正な税制」を用いているDiscriminatory Foreign Country(DFC)外国・地域をまず定め、そのDFCに帰属する米国企業に対して、源泉徴収税、法人所得税、およびBEAT税(Base Erosion Anti-Abuse Tax)を追加課税すること等、提案している。メイン骨子は以下の通りである。
米国政府から見て不公平な税制を用いているDiscriminatory Foreign Countriesとは、Treasury Department(米国財務省)が四半期ごとに見直して判断、リストアップする。Section 899法案において、不公平な税制の具体例としては「デジタルサービス税(DST)」や「軽課税所得ルール(UTPR)」が列挙されている。日本国は、軽課税所得ルール(UTPR)を既に制度として導入済である。したがって、日本も、このDiscriminatory Foreign Countryのリストに含まれる可能性は十分ある。逆に言えば、Section 899から日系企業の適用を除外するためには、日本国がDiscriminatory Foreign Countryに認定されることを防ぐしかないと考える。そのための方法策としては、a)日本国政府が米国の言う「不公平な税制」つまり軽課税所得ルール(UTPR)を制度として撤回するか、あるいはb)軽課税所得ルールのなかで例外を設け米国企業又は米国人を適用除外とするか、が考えられる。いずれにしても、Section 899が、現法案に近い状態で上院議会を通過すれば、日本政府は、関税の時と同じように、再び米国政府と直接交渉を強いられる可能性が出てくる。
Section 899を含むOne Big Beautiful Bill Actは現在上院議会で審議されている。共和党は7月中の可決を目指しており、10月頃までに立法化、2026年1月から適用したいと考えている。一方日本では、2026年4月から軽課税所得ルール(UTPR)を実際的に適用開始する予定だ。つまりこの日米両国の流れを見ると、一番早いパターンとしては、来年2026年4月頃より、米国日系企業はSection 899の適用を受けることになる可能性がある。ただし、上院議会では現在の素案に対する批判もある。Section 899の適用開始時期の先送りや、税率の引き上げ幅の縮小も議論されている。しかし修正されてもSection 899自体は上院を通過する可能性は高い。今から日系企業は、Section 899が適用された場合にどのように対応、どのように判断するのか、適宜状況を監視しつつ、対応策を準備する必要があろう。
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