Nagano Morita, a Division of Prager Metis CPAs
NAGANO MORITAは、プレーガー メティス米国会計事務所の日系部門です。
会計税務情報 2025年7月17日号
Nagano Morita, a division of Prager Metis
第二次トランプ政権が推進する「One Big Beautiful Bill Act(OBBBA)」による減税法案は、7月3日に上下両院を通過し、翌7月4日の独立記念日に大統領の著名を経て成立した。国際税務上、最大の焦点となっていたSection 899「報復税(Retaliatory Tax)」は、最終的に法案から削除された。6月末に米国財務省とG7主要各国との間で交渉が急ピッチで進められ、その結果、同条項の削除に至ったのだ。以下、トランプ政権の目玉政策であるOBBBAの概要について論点整理する。
主要7カ国(G7)と米国財務省は6月28日、法人税の国際最低税率を15%とする合意のうち、低課税所得ルール(UTPR)から米企業を除外する修正案で一致した。これを受け、ベッセント米財務長官は、OBBBAに盛り込まれていたSection 899「報復税」を撤回する方針を発表している。報復税は外国資本の米国関連会社に対する新課税として懸念されていたが、最終段階で導入は回避された。
OBBBAは、第一次トランプ政権時のTax Cuts and Jobs Act(TCJA)における多くの時限措置を恒久化するとともに、新たな減税や控除を追加している。トランプ氏が選挙キャンペーン中に掲げたチップ収入や残業代の非課税化なども盛り込まれた。多くの措置は2025年度の申告から適用される。
1. SALT (State and Local Tax)の控除額拡大
州・地方税の連邦控除上限を、従来の$10,000から$40,000まで引き上げる。Modified Adjusted Gross Income(MAGI)が$500,000を超えると段階的に控除上限を縮小する。
2. チップ収入の非課税
飲食業従業員などのチップ収入を、非課税(限度内)にする。W-2給与明細に計上されるチップ収入欄からマイナスされる計算となる。控除限度額は$25,000(独身者)、MAGIが$150,000(独身者)超で段階的に減額される。
3. 残業代の非課税
適格なqualified overtime compensation、企業が支給する残業代について、非課税扱い(限度内)となる。限度額は$12,500(独身者)。MAGIが$150,000(独身者)超で段階的に減額される。
4. 自動車ローン利息の控除
米国内で組み立てられた新車に限り、自動車ローン利息を課税所得から控除できる。上限は$10,000、MAGIが$100,000(独身者)超で段階的に縮小する。
5.トランプ口座の開設(新生児支援ファンド)
米国の少子化対策として「トランプ口座(Trump Account)」を開設。2015年から2028年生まれの米国市民向けに、子供名義の貯蓄口座を開設できる。アメリカ政府が口座に$1,000をシードマネーとして拠出する。年間拠出限度額は$5,000となる。子供18歳まで引き出し不可。Traditional IRA(Individual Retirement Account)と同じイメージで扱われる。
1. 100%ボーナス減価償却の復活
固定資産の購入使用時に即100%を損金算入できる。TCJAから段階的に減っていく予定であった(2025年40%)。今回の措置によって2025年から購入し使用する固定資産については全額損金算入できる。
2. 研究開発費の全額償却
米国内の研究開発費(Domestic Research & Experimental Expenditures)は、従来としては60カ月(5年)期間で償却が必要であった。今回により2025年度からの米国内の研究開発費は、全額当期で損金算入可能となる。
3. Employer Provided Mealの50%控除規定の終了
企業側の50%損金算入は予定通り2025年末で終了。2026年以降、Employer Provided Mealにかかる費用は損金算入不可となる。一方、Employer Provided Mealを享受する従業員側は、引き続き非課税扱いとなる。
OBBBAは、TCJAの基本構造(法人税率21%、NOL当期所得控除制限80%)を維持しつつ、恒久化と追加減税を盛り込んでいる。減税効果としては大きいものの、財政負担は重くのしかかる。OBBBAにより、今後10年間で米国債務が4.1兆ドル増加、財政赤字はGDP比1.1%増加するという試算もある(出所:Committee for a Responsible Federal Budget)。今後の注目点は、「トランプ関税」による税収等で財政赤字をどの程度補えるかである。よって、引き続き政策動向を注視する必要があろう。
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