会計税務情報 2011年10月号
永野森田会計士事務所
外国金融資産の情報開示強化(Form 8938)
現在、米国では納税義務者による海外の銀行口座や投資の隠匿の懸念が絶えない。米国政府はこのような外国金融資産からの課税所得の把握を強化する対策を着実に打ち出してきている。その対策の一つとして内国歳入庁(以下IRS)からForm 8938、「特定外国金融資産のステートメント、Statement of Specified Foreign Financial Assets」のドラフトが最近発表された。これは米国納税義務者が海外の金融機関等に保有する資産から得た所得を適正に開示し納税するために導入された書類である。従来のForm TD F90-22.1(通称「FBAR」)とは別であり、より強制力のあるフォームである。背景には、2010年3月に成立した「雇用回復のための採用支援法、Hiring Incentives to Restore Employment Act of 2010(HIRE Act)」がある。この法律自体は文字通り雇用対策、景気対策を目的としているが、その財源確保の一環として「外国口座税務コンプライアンス法、Foreign Account Tax Compliance Act(FATCA)」が盛り込まれており、今回の書類はそれに基づいている。今月はこのForm 8938について概説する。
1. 開示対象となる特定外国金融資産とその開示内容
新しいForm 8938で開示対象となる特定外国金融資産には、外国にある銀行の預金、株式、債券等が該当する。そして、それらの特定外国金融資産をある年度末において5万ドル、もしくは、年度中において10万ドルを超えて保有する個人は所得税申告書にForm 8938の添付が義務付けられることとなる。なお、この場合の10万ドルとは当該年度において一度でも時点で添付義務が発生することを意味する。書類の記載内容としては特定外国金融資産が存在する金融機関の所在地や年間最高残高などの情報及びそれらの金融資産から発生した利息、配当、ロイヤリティー等の所得の記入が求められる。また、それら所得は、米国申告書のどこに開示されているのか(Form, Schedule, Amount)を、具体的に記載しなければならないという、かなり詳細な開示を要求される。このフォームの添付は、米国市民に限定されず米国に申告書を提出する義務のある個人全てが対象となる。
2. 海外金融機関の協力参加の義務化
FATCAの最大の特徴としては、海外金融機関 Foreign financial institutions (FFI) に協力参加を義務づけている点である。US taxpayerの海外金融資産を管理するすべて世界中のFFIについては、IRSと協力関係を結び、以下を協力しなければならない。
1) US Accountの特定
2) US Accountに関する情報開示
3) Non FFIに送金される際には自働的な30%源泉徴収
もし海外金融機関がIRSとこうしたことを拒否した場合、それらFFIへ送金されるUS Source Income (米国源泉所得)については、IRSは強制的に30%源泉徴収の対象としている。IRSによるかなり強引な手法と言えよう。
3. 適用開始時期
この書類は2010年3月以後が適用開始時期となっている。よって暦年で申告書を作成する個人の所得税の場合、2011年度の申告書からこの書類の添付が必要となる。しかし、現時点ではこの添付書類がドラフト段階にあるため、確定した段階で添付開始となる予定である。ドラフトは今年の6月に公表されているため、次の2011年度の申告書から添付開始となる可能性が高いと考えられる。フォームの確定が先延ばしになってしまった場合であっても、申告書への添付は遡及して必要となる。例えば、フォームが2012年10月に確定した場合には、2012年度の申告書には2011年度及び2012年度分の2年分のForm 8938の添付することになる。
4. ペナルティー
Form 8938を申告書に添付しなかった場合についてのペナルティーは1万ドルであり、IRSの通知にもかかわらず申告しなかった場合は最高で5万ドルまでのを課せられるとしている。また、外国金融資産からの所得の過小申告額に対して40%のペナルティーが課せられる。
5. 外国預金口座報告義務との関係
Form TD F90-22.1「外国預金口座報告書、Report of Foreign Bank and Financial Account(FBAR)」とForm 8938を比較すると報告対象となる外国金融資産は重複する部分が多い。しかし、報告対象となる金額はFBARの場合は1万ドル超である。また、FBARの申告先は個人に加えて法人対象も明確化にされている。一方、FBARでは、海外金融機関による強制的な情報開示の義務はなく、また受取利息など所得がどの申告書の転記されているかを開示することも要求されていない。このためForm 8938の登場によりFBARは消滅するわけではなく、該当者は両方の書類の申告するという、煩雑な業務が増える結果となろう。
(参考)
IRSのForm 8938のドラフト
http://www.irs.gov/pub/irs-dft/f8938–dft.pdf
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更新日: 2011年10月04日