会計税務情報2011年4月号
永野森田会計士事務所
震災義援金と寄付税制について
3月11日、恐怖と深い悲しみが日本および世界中を覆った。この未曾有の危機を乗り越えられるかどうかが、後世の子孫の存続と繁栄にかかってくるとも指摘 される。そうした中、日本および世界中からこの大震災に対する励ましの「義援金」が多く寄せられている。一方、これを税制面でどのように扱われるのか分か らないという質問も多く出されている。今月は、東日本大震災の救済目的の義援金と寄付税制税制について焦点を当てた。
1. 広がるJapan Tsunami Relief活動
大震災を機に、米国の日系企業・日系コミュニティーは、自粛ムード一色に変わってしまった。一ヶ月経過した現時点においても、イベント中止の動きが広がり を見せている。一方、震災に関する「募金」「義援金」の活動が活況を見せている。日系のスーパーはもとより、米系のスーパーや量販店、ガソリンスタンド、 公立学校、スターバックスなどでも、”Japan Tsunami Relief”とレジ店員、映画、放送やポスターなどを通じて呼びかけている。圧巻だったのは、ロサンゼルスの大学生らが道路交差点で”Honk if you Love Japan”と書かれたプラカードを高く掲げ、走る自動車がクラクションをならすごと、自らが10ドルを震災宛て献金をするという、個人で行なう寄付活動 であった。しかし、こうした様々な寄付金活動が盛り上がる中、税制面での控除という特権を正しく理解し使うべきであろう。
2. 寄付金の控除可能額
米国においては一定の条件を満たす寄付金(Charitable Contribution)であれば、法人・個人ともに所得から次の上限で控除できる。
【法人による寄付】 Federal法人課税所得の10%
上限を超える額は、5年間の繰越が認められる。
【個人による寄付】 Federal 個人所得Adjusted Gross Income(AGI)の20%, 30%, 50%
基本は上限はAGIの50%だが、寄付が上昇価値のある資産の場合は30%上限、また特殊指定の寄付先団体(Private Foundation)であれば20%上限となる。また法人同様、上限を超える額は、5年間の繰越が認められる。
3. 寄付控除可能な対象先
法人と個人による寄付は、いわゆるCharitable Contributionとして米国税法IRC 170(c)による所得控除の恩恵を受けるためには、寄付対象先がQualified Organizationでなければいけない。ここで、Non-profit Organization(NPO)への寄付は、すべて控除になるとの印象になりがちだが、NPOはすべてQualified Organizationという訳ではないことを、認識すべきである。NPOとは、税法上その団体の経済活動の結果として生じた所得を非課税とする旨を 謳ったIRC501条を参照し、IRSから非課税の承認を取り付けた組織のことである。それは、次の通りに分類される。
501(c)(3) 宗教、教育、慈善、科学、文化、公共の安全を目的とした組織他
501(c)(4) 公共福祉、親睦団体他
501(c)(5) 労働組合、農業団体他
501(c)(6) 経済環境改善を目的とした経済団体等
501(c)(7) レクレーションを目的とした同好会等
以上全てを含めて通常NPOと呼ばれているが、寄付控除という観点からみれば、所得税上控除となるのは、IRC 501(c)(3)条で認可された団体への寄付のみである。その他の団体はNPOをしているとしても、そちらへの寄付は、適格控除できない。
したがって、寄付対象先のホームページで、
“We are a 501(c) 3 non-profit organization and all your contributions for this Fund drive are tax deductible.”
と明記しているのであれば、それは寄付控除できる団体先であると確認できる一つの有効な方法である。
4. 寄付の注意点(まとめ)
前述の通り、NPO=charitable contribution qualified organization(寄付控除先団体)という等式は成立しないということを理解することが肝要である。例えば、米国における県人会や大学同窓会など で募金活動をしているが、そこに直接献金しても、寄付控除適格にはならないのである。又、学校にも営利法人と非営利法人があることから、学校への義援金は すべて控除可能とは言えない。更に、(米国から見た)外国への慈善団体、例えば、日本赤十字社に直接寄付をしたとしても、米国では所得税から控除できないため、ご注意いただきたい。
こうした場合、寄付の受け皿となれない組織は、間接的に寄付を募り、最終的な小切手の支払先はUS UNICEFや、American Redcross宛てとして、寄付証明書はそちらから発行されるようにするケースが多い。
また、現金の代わりに、人的なサービスを提供することにより、それを人件費に換算して寄付と扱うことは禁じられている。例えば、アカウンタントが無償で American Redcrossなどで会計奉仕を行なったとしても、それは税務面のメリットのない、文字通りの「無償のサービス」となる。
いずれにしても、被災地の方々の安全と、一刻も早い復旧を祈る。
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更新日: 2011年04月04日