会計税務情報2015年4月号
永野森田会計士事務所
個人所得税の節税対策の事例
今年の米国個人タックス・シーズンも終了した。個人の税務申告を計算した結果、課税額が予想よりも大きく還付額は少なかったといったクレームは毎年のように噴出する。そうした中「適切な節税対策を教えて欲しい」と望む声も必然的にあがる。節税とは、合法的に課税を減らす方法にほかならない。そこで今回は、米国における個人所得税の節税について事例(*)を用いながら論説する。
1. 課税所得を合法的に回避する
現金を必要とする際、資産売却ではなく借入金として現金入手する方法である。資産売却による譲渡益を回避できる。借入れは後々に返済しなければならないが、当期における課税所得を回避できる方法である。
例1)
個人事業主Aは投資物件のために現金$30,000を必要とする。そこで土地(市場価格$50,000)を売却し現金化することを考えたが、この方法ではCapital Gain$40,000($10,000で購入)が発生する。今期におけるCapital Gainはなんとか避けたいと考える。そこで、現金$30,000は全額借入れして少しづつ利息付で返済する方法の方が全体的に見て得策だと考える。
また、節税可能な支出項目を選択することにより課税所得を抑えることができる。例えばIRC 125のPretaxの医療保険やIRC 529の教育投資などである。
例2)
個人Bはこれまで個人的で加入していた医療保険から、企業の用意するIRC 125のCafeteria Plan医療保険に切り替えた。これにより課税所得を低く抑えることができる。例3)
個人Cは子供の教育支出目的(tuition, fees, books, as well as room and board)とした投資支出を、従来の株式投資からIRC 529に基づいた投資に切り替える。これによりその投資のEarningsは非課税となる。
2.所得や損金を認識するタイミングを変更する
課税所得の計上タイミングを合法的にずらすことが可能であり、かつ、将来の税率をある程度予見できる場合、有効な節税対策として利用できる。
例4)
投資家Dは、保有する土地が$5,000値上がりした。今年売却しようと考えたが、売却による課税は将来の方が得策だと考え、売却せずに保有した。例5)
個人Eは教会活動へ毎年1月頃に寄付している。ただし今年は予想よりも多く所得を予想しているため、毎年の寄付金時期を早めて年内12月に行い、今年の節税対策に充当する。例6)
個人事業主Fは、個人で絵画を販売している。ただし今年の売れ行きが芳しくないため、損金算入にできる費用支出(広告費用、寄付など)を、売り上げが戻る来期以後に支出する。
3.管轄する地方自治体を選ぶ
地方自治体の課税ルールはまちまちである。そのため所得の源泉を、合法的な範囲内に他自治体に動かすことにより節税効果を発揮することが可能となる。
例7)
個人事業者Gは、州をまたがるセールズ活動をしている。各州の滞在日数を記録することにより、所得税の低い州(例:ネバダ州-所得税ない)の居住者であることを証明している。これにより、州税を格段に節約できる。
4.所得の種類を変更する
連邦税の所得は、Ordinary Income、Portfolio Income, Long-term Capital Gain, Passive Incomeなど所得の発生種類により分類される。もし合法的に所得の種類を変えることができるのであれば、節税対策として利用できる。
例8)
個人投資家Hは、コンサルティング会社の100%オーナーである。同時に貸家にも投資しており、賃貸事業よりpassive losses年$4,000を計上している。この$4,000のpassive lossは、本人のOrdinary IncomeやCapital Gainなどとは相殺できない。あくまでもpassive incomeとして相殺することしかできない。そこで、100%所有のコンサルティング会社から本人所有のオフィス機具や自動車など使用料としてのリース収入を$4,000得ることができれば、$4,000passive incomeと$4,000 passive lossを、相殺することが可能である。
5.所得を拡散する
個人や法人などは決められたタックス・ブラケット(所得金額に対する税率%)を持っている。そのため、個人や法人などに所得を集中させると、累進課税により税率は自ずから高くなる。そうしたことから、合法的に所得を拡散(income splitting)できれば、全体として税率を低く抑え、有効な節税対策となる。
例9)
個人Iは、両親の老後生活支援のために資金援助をしている。拠出資金は損金算入できないために通常の税率(例30%)でかけられた後(after-tax)に両親に支払われている。一方、Pre-taxとしトラスト(信託)を経由して両親に支払われるのであれば、より低い税率(例18%)で支援できることになる。
以上は節税対策のほんの一部事例である。実際に節税対策を実施する際は税法に照らし合わせて合法的であるかどうかを専門家を通して確認する必要がある。
(*上記事例はFederal Tax Research 9th Edition, South Western, 2012より参考させていただいた)
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