会計税務情報2014年12月号
永野森田会計事務所
財務諸表のプレパレーションについて
2014年10月にAICPA(米国公認会計士協会)よりStatement for Accounting and Review Services (SSARS) No. 21, “Statements on Standards for Accounting and Review Services: Clarification and Recodification”(会計及びレビューサービス:明確化及び再編成)の基準書が公表された。旧来からSSARSには、監査(Audit)より保証水準が低いレビュー及財務諸表の調製(コンピレーション)に関してどのような手続きを実施すべきかが規定されていた。今回の改訂では、レビュー、コンピレーションに加えて、財務諸表の作成(プレパレーション)という概念が導入された。今月号では、財務諸表のコンピレーション及び新概念であるプレパレーションの特徴について概説したい。
1. 背景
1978年にSSARS No.1, “Compilation and Review of Financial Statements”が発行された当初は誰が財務諸表を作成したかの判断は容易に行えた。しかし近年クラウド・コンピューティングやソフトウェアの進歩により会計事務所、会社又は双方により財務諸表が作成されるようになってきており、誰が財務諸表の作成を行っているかという判断が難しくなってきている。このようなことからコンピレーションの基準を明確化するとともに、新しくプレパレーションという区分を設けることとなった。
2. 財務諸表のプレパレーションについて
財務諸表のプレパレーションとは、監査、レビュー又はコンピレーション業務以外で会計事務所がクライアントの財務諸表を作成することをいう。具体的には、会計事務所がクライアントのために財務諸表を作成はするものの、監査、レビュー又はコンピレーション程の保証又は証明水準が不要な場合に対応するサービスであるといえる。このため大きな特徴として、プレパレーションによる財務諸表には会計事務所のレポートは求められない。この場合のレポートとは、会計事務所が監査等を行った財務諸表に関して一定レベルの保証又は証明を行う文書である。保証又は証明をつけないことが特徴であるので、第三者への提出が想定されている財務諸表であったとしても、プレパレーションによる財務諸表にはこのレポートは含まれないこととなる。なお、プレパレーションによる財務諸表のユーザーに対して注意を喚起するため、監査、レビューが行われていないということを明確にする「会計事務所の保証は無い」という文言を各ページに入れることが義務付けられた。通常、財務諸表には注記事項の開示も必要とされるが、このプレパレーションによる財務諸表では注記事項の有無は問われない。また、保証も証明もしないため、会計事務所とクライアントの間の独立性も問われない。一方、監査等の業務と同じように、このプレパレーションサービスにおいてもクライアントとの契約書の作成は義務化された。
3. 財務諸表のコンピレーションの変更点等について
財務諸表のコンピレーションには必ずレポートが必要となる。マネジメント使用に限定した財務諸表は従来あったようにコンピレーションを行った上で、そのレポート上でマネジメント限定使用に触れるような形は採用できなくなる。そのような場合、財務諸表はプレパレーションとして作成されることになる。なお、従来どおり、契約書は必要であり、会計事務所とクライアントとの間の独立性も保つ必要がある。また、財務諸表の注記事項が省略可能なことも変更ない。
4. コンピレーション及びプレパレーションの比較
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コンピレーション |
プレパレーション |
契約書の要否 |
必要 |
必要 |
会計事務所とクライアントの間の独立性の要否 |
必要注1 |
不要 |
独立性が損なわれている場合の開示の必要性 |
必要 |
N/A |
レポートの要否 |
必要 |
不要注2 |
財務諸表の外部第三者へ提出の可否 |
可 |
可 |
財務諸表の注記事項を省略の可否 |
可 |
可 |
注 1 独立性は求められるが、独立性がない場合はレポートにその旨を言及することで業務受 託は可能
注2 財務諸表の各ページには会計事務所の保証が無い旨を注釈
5. 適用開始時期
このSSARS No.21は、2015年12月15日以降終了する事業年度の財務諸表から適用開始となる。つまり2015年度より適用対象となるが、早期適用も認められている。
6. まとめ
米国進出企業の記帳業務を会計事務所に委託しており、かつコンピレーションによる財務諸表を必要としていないような場合、保証、証明がないプレパレーションによる財務諸表を会計事務所に依頼することが可能となった。企業は、監査、レビュー、コンピレーション、そしてプレパレーションから自身のニーズに合った保証レベルのサービスを選択することになる。財務諸表のユーザーも決算書を読む上でこれらの違いがどのような意味を持つのか関心を持ちたい。
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