会計税務情報 2013年7月号
永野森田会計士事務所
収益認識に関する疑問~ギフトカード、ライセンス、不利な履行義務
収益認識基準は、IFRSへの対応が注目される中、ホットトピックスになっている。2013年5月号ニュースレターでは、FASBとIASBとの共同作業で終盤を迎えつつある収益認識、リース、金融商品の会計基準の変更を、3大変更-“ Big 3 (Proposed) Changes”として位置づけられていることを概説した。その収益認識に関しては、公開草案を経て近日中にも最終基準書が公表される見込みであるが、今回の基準変更では、ギフトカード販売、ライセンス契約、不利な履行義務等興味深い点もカバーされている。今月号では、それらに関して設問形式で概説したい。一定の結論に至るまでにFASBとIASBの収益認識共同プロジェクトで行われた哲学的ともいえる議論の内容が浮かび上がってくる。
QUESTIONS:
A.ギフトカード
ギフトカード(昔の商品券)に関しては、それを販売して代金を受け取っただけでは、現金を預かっただけであり、収益の計上をすべきでないという会計慣行は確立されている。しかし、利用されないままになっているカードに関してどのように処理するかについては、統一的なGAAPは存在しなかった。それでは、退蔵されたギフトカードは、どのように会計処理すればいいのか?なお、ギフトカードには有効期限や時効はないとする。
a. ギフトカードに有効期限や時効がないのだから法的債務は存在しており、簿外債務を発生させないという観点からも永久に負債計上しておく。
b. 法的に債務は消滅しなくとも、あまりに時間が経過していたら使われる見込みはほとんどないので一定期間経過後に貸倒処理の反対のような収益処理をする。
c. 統計的には一定割合は常に使われないと推測されるため、b.のように時間の経過など待つ必要はない。仮に5%使われないというデータがあるなら、販売した総額$100,000あるギフトカードの内$95使われた時点で$5($100×5%)についてはもう利用されないものとして収益処理をする。
d. 統計がしっかりしているなら、c. のように使われるのを待つ必要もない。ギフトカードを販売した段階で一部を使われないものとして収益認識すべきである。例えば、上記の例では、$100,000販売した時点で5%分$5,000の収益を即時に認識する。
B.ライセンスの供与
ビジネスにおいてライセンスの供与契約は頻繁に行われている。対象は、特許、証憑、著作権、ソフトウェア利用権、フランチャイズ権等多岐にわたるが、これらにかかる収益はどのように認識したらよいのか以下の2つの設問で考えていただきたい。
(問1)
ソフトウェア開発会社が汎用性のある倉庫管理ソフトウェアを開発し、倉庫会社数社にそのソフトウェアを一社あたり$10,000で2年間利用させる契約を結んだ。当初の納入の後、ソフトウェア会社にはメインテナンス等の義務はないものとする。
a. 契約はソフトウェアの利用権を設定しており、実際にソフトウェアが納入された時点で契約上の義務の履行と権利の設定は終了しており、納入完了時に$10,000の収益を認識する。
b. 契約は2年間に渡りソフトウェアを利用させる謂わばサービスの提供であり、収益は2年間に渡って時の経過とともに認識する。
(問2)
著名なファッションブランドを保有する会社が、そのブランドを外国の会社にその外国で5年間$50,000で使用する権利を付与した。
a. 契約はブランドの利用権を設定しており、ブランドを供与した時点で契約上の義務の履行と権利の設定は終了しており、供与時に$50,000の収益を認識する。
b. 契約は5年間に渡りブランドを利用させる謂わばサービスの提供であり、収益は5年間に渡って時の経過とともに認識する。
C.不利な履行義務
様々な要因から企業は時として採算割れの要素を含むような契約をすることがある。例えば以下のような例である。
A社は、経営コンサルティング業を営んでいるが、顧客の要望に応じてコンピューターのハードウェアも納入している。ある契約でコンサルティングとハードウェアを提供することになった。総額$200,000の契約であり、そのうちコンサルティング部分が$150,000(原価$100,000)で$50,000の利益が見込まれるが、ハードウェア部分は$50,000(原価$60,000)で$10,000の損失が見込まれている。
a. 契約全体としては、$40,000の利益となるため特別な会計処理は不要で、契約の履行が完了してコンサルティングとハードウェア納入が終わった段階で、$200,000の収益と$160,000の原価を計上する。
b. 1つの契約に何を入れるかは恣意的に決められる可能性があるため、コンサルティング部分とハードウェア部分は別々に会計処理すべきである。コンサルティングが終わった段階で、収益$150,000と原価$100,000を計上し、ハードウェア納入時に収益$50,000と原価$60,000を計上する。
c. b.のように履行義務毎に契約を分解する考え方を採用した上、損失が発生すると考えられるハードウェア部分については、キャッシュフロー的には損失が出ていなくても履行後ではなく契約時に$10,000の損失を計上しておく。
ANSWERS:
A.ギフトカード
答:c. 及びb.
ギフトカードで退蔵されて使われない残高(breakage)の収益処理については、以下の2つの方法が示されている。
(1) Proportionate Method(比例方式)-breakage部分の割合が合理的に確実(Reasonably Assured)である場合には、顧客が実際に行使した金額に比例して予想されるbreakage部分の金額を収益として認識する。Reasonably Assuredな場合とは、会社が同種のギフトカード等の利用実績データを持っており、そのデータが予測に役立つものである場合とされている。
(2) Remote Method-breakage部分の割合がReasonably Assuredでない場合は、ギフトカード残高の内、使用される可能性が低い(Remote)と判断されるものについて、その残高を一度にbreakageとして収益認識する。
なお、州によっては使われないままの残高は行使されていない資産(unclaimed property)としてその残高を州当局が管理する。これは通常escheatと呼ばれており、ギフトカードの販売価額(現金)が州当局に委ねられる。なお、カリフォルニア州では、通常3年以上、持ち主・請求者が現れない場合そのunclaimed propertyをCalifornia State Controller’s Officeに移転することとなっているが、ギフトカードは通常escheatの対象ではない。しかし、州によってはescheatの対象になっているため各州法を確認する必要がある。
B.ライセンスの供与
答:(問1) a.
(問2) b.
FASBとIASBは2012年11月に2011年公開草案に関する再審議を行っており、そこでライセンスの扱いが議論された。その結果、ライセンス契約については、以下の2つに分類でき、それに合わせて収益を認識すべきであるという合意が形成された。
(1) 一時点において知的財産権を提供する契約
(2) 一定の期間にわたって知的財産へのアクセスを提供する契約
(1)か(2)かの判断は、下のa.~c.の要件に合致するか否かで行われ、合致する場合は、権利を提供するものとして一時点で収益を認識し、合致しない場合は、アクセスを提供するものとして、提供期間に渡って収益を認識する。
a. ライセンスの形で移転する権利が、基礎となる知的財産から生成されたアウトプットである。(知的財産を基礎として生成されたものがたまたま有形の資産ではなく無形資産であったような場合と説明されている。)
b. 企業が当該ライセンスを、基礎となる知的財産の価値にほとんどまたは全く影響を与えることなく容易に再生産することができる。
c. 顧客が権利の使用態様及び時期を決めることができ、それらの便益を享受するにあたり顧客が追加的な履行を企業に求めない。
以上を設問に当てはめると、(問1)の場合は、ソフトウェア自体の特許権/著作権そのものでなくそれを基礎とした利用権であること、さらにその利用権をいくら再生産(再設定)しても基礎となるソフトウェアの価値は低下しないことから、権利を提供するライセンス契約として供与時に一括して収益を認識することになる。
一方、 (問2)の場合は、ブランドの利用権をブランド会社が再生産(再設定)した場合、ブランドの価値が変動すると見込まれることから、権利の提供ではなく、ブランドへのアクセスの提供と判断されることになる。
なお、上記の要件については暫定的なものとされており、難解であるとの批判もあることから最終基準書で変更される可能性もある。
C.不利な履行義務
答:c.
改定草案では、契約全体ではなく、契約を分解して履行義務毎に潜在的に不利なものがないか判断することを求めている。このため例のように全体では、利益が出ていても、一つの履行義務において損失が生じる場合はそれを分離して会計処理をすることになる。さらに、潜在的に不利な履行義務については契約時に事前に損失を引き当てることになる。
以上のように、細かい収益の基準になるとQuestionのどの選択肢もそれなりに説得力を持ち得る。収益認識の基本的枠組みと整合性を保つ努力がなされているが、ライセンスのように難解で実務に使えるのか疑問を感じるような指針も検討されている。さらに、収益の認識基準については、原則主義をとっているIFRSへのコンバージェンス作業をしているにもかかわらず、指針(Implementation Guidance)レベルでは非常に細かい議論がなされている。規則主義をとってきたFASBが積極的に参加した当然の帰結ともいえるが、何が成文化して決められており、何が企業の判断に任されているかを確認するのに手間がかかりそうである。いずれにしても近日中にも発表されるといわれている最終基準書の内容が注目される。
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