会計税務情報2013年4月号
永野森田会計士事務所
日米租税条約、9年ぶりに一部改正へ
去る2013年1月25日、麻生太郎財務相より、日米租税条約の改正で米国と合意されたとの発表があった。「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国との間の条約を改正する議定書」に両国政府間で署名されたのである。これにより2004年以来、約9年ぶりに日米租税条約一部改正へと、一歩進んだと言える。内容的には、1)投資所得(配当及び利子)に対する源泉地国免税の対象を拡大、2)租税条約上の税務紛争の解決促進のための相互協議手続きに「仲裁制度」を導入、3)両国間の徴収共助の対象を拡大などの点が変更になった。署名を受け、日米両政府は発効のための手続きに入る。今月号では、この改定議定書の内容を以下の通り3つのポイントで解説したい。
1. ポイント1 ― 投資所得(配当及び利子)に対する源泉地国免税の拡大
A) 現行の日米租税条約10条、11条
現行の日米租税条約では、第10条が配当課税に関する条文、第11条が利子課税に関する条文となっている。双方の条文に共通するのは、「居住地国課税を原則、源泉地国課税を制限」という基本方針である。例えば、米国進出日系企業が、日本親会社からの借入金に利息を支払う場合、親会社の居住地国である日本が原則課税権を持つものの、利息源泉地国であるアメリカ側でも制限的に課税できるという仕組みになっている。
具体的には、アメリカ側の源泉課税率は、支払配当に関して、対台湾など租税条約がない場合は、原則30%であるが、租税条約がある対日本では原則10%までに制限されている。また支払利子に関しても、租税条約がない場合は原則30%であるが、日米租税条約は原則10%までに制限している。なお、アメリカ国内法は日米租税条約とは別に非居住者(Non Resident)である限り、銀行預金に対する利子所得は非課税とされている。
B) 具体的改正内容
今回の議定書の最大ポイントは、上記の日米租税条約第10条、11条を改正することにより、投資所得(配当及び利子)に対する源泉地国課税の減免が以下のように拡大されることである。
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現行条約 |
改正条約 |
配当 |
原則10% |
変更なし |
持株割合10%以上5% |
変更なし |
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免税要件:持株割合50%超 |
免税要件:持株割合50%以上 |
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保有期間12ヶ月以上 |
保有期間6ヶ月以上 |
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利子 |
原則:10% |
原則:免税 |
金融機関等の受取利子:免税 |
つまり、アメリカ側における源泉利子に対する課税は、原則的に免税となる。その結果、受取利息は、日本のみで課税される。米国側での源泉徴収を免れるため、受取側の日本親会社にキャッシュフロー管理上余裕がでることになる。さらに、源泉徴収や外国税額控除等の事務手続きも軽減される。
例えば、米国進出日系企業が、日本親会社に借入金利息額を海外送金した場合を考える。現行条約では、利息額の10%を源泉徴収しIRSに支払っているが、改正後は、徴収額はなくなる。但し、これまでと同様、日本親会社は米国子会社宛にW-8BENを提出、また翌年の3月15日までには、米国子会社は源泉徴収額ゼロとしたForm 1042-SをIRSと親会社に提出することになる。また、源泉徴収額ゼロの場合、受け取った側の親会社は免税を報告するためにForm 1120-FをIRSに提出する必要があり(現行のForm 1120-F Instructionに記載)、この点については新たな事務負担になるとも考えられる。要注意である。
2. ポイント2 ― 相互協議手続きにおける仲裁制度の導入
日米租税条約の「二重課税防止規定」を遵守する目的で導入する。具体的には、移転価格税制などで日米間の税務当局の立場に食い違いが生じた場合、納税者(企業)により、日米両国の税務当局に対して申し立てをする。両国の税務当局間の協議により2年以内に事案が解決されない場合、納税者からの要請に基づき、第三者から構成される「仲裁委員会」の決定により事案が解決される。これは、OECDのモデル租税条約の内容に沿ったものである。相互協議が合意に至らず二重課税状態が長期に渡って続くといった事態の解消に資すると期待される。
3. ポイント3 ― 徴収共助の拡充
相手国の租税の徴収を相互に支援する制度(徴収共助)の拡大である。現行条約では納税者の条約濫用の場合に対象範囲が限定されているが、改正後は、滞納租税債権一般について適用されるように対象範囲が拡大される。日本の租税については、所得税、法人税、復興特別所得税、復興特別法人税、消費税、相続税、贈与税がこの徴収共助の対象となる。
4. 今後のスケジュール
今回の一部改正された日米租税条約は、以下のような流れで発効される予定である。
条約交渉開始 —> 基本合意 —> 署名 —> 国会承認(日本) 上院承認(アメリカ) —> 公文の交換 —> 発効・公布
現在、改正議定書は、まだ署名を終えたばかりである。今後、日米両国において、それぞれ国内手続(日本においては国会の承認、アメリカにおいては上院の承認)を経た後、両国間で批准書を交換した日に効力を生じる。具体的には、以下の経過措置で適用されることとなる。
(a)源泉徴収される租税に関しては、効力を生ずる日の3ヶ月後の日の属する月の初日以後に支払われる額
(b)その他の租税に関しては、効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に開始する各課税年度
従って、効力を得て本当に源泉利息がゼロとなるのは、今年(2013年)終わりから来年(2014年)初めにかけてと見込まれる。日本親会社へ多額のローンを支払っている米国企業にとっても、返済手続きが簡略化され、嬉しいニュースとなるだろう。
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