会計税務情報2012年6月号
永野森田会計士事務所
“Amazon Tax”9月15日からカリフォルニア州で施行か
米国で現在は、インターネット小売業者への課税が、州レベル、連邦議会レベルで侃々諤々(けんけんがくがく)の議論の対象になっている。今月は、日本の消費税とアメリカの売上税を対比するとともに、現状では今年の9月15日には施行されると思われるカリフォルニア州のいわゆる「アマゾン税」について触れたい。
1.日本の消費税とアメリカの売上税の違い
日本の消費税は、全国均一の国税(4%分)と地方税(1%分)で構成されており、財・サービスの消費にかかる税金である。一方、アメリカの売上税は、連邦税ではなく、州、郡(county)、市の税金であり、原則、財・サービスの売上にかかる税金である。税率は、州や市によって異なり、ニューヨークでは、8.875%(州4%、市4.875%)、サンフランシスコ8.5%(州6%、郡2.5%)、同じカリフォルニア州でもロサンゼルスは、8.75%(州6%、郡2.75%)とまちまちである。
また、本質的な違いは課税対象にある。日本の消費税は厳密には、「国内において事業者が行った資産の譲渡等」(消費税法第4条1項)に課税される。一方、アメリカの売上税は、例えばカリフォルニア州の場合、“For the privilege of selling tangible personal property at retail”(CA Revenue and Taxation Code Section 6051)に課税するとある。この性格の違いを反映して、課税システムも全く異なったものになっている。日本の消費税は、資産等の譲渡がある毎に課税するシステムを取っているため、事業者間の転売でも課税が行われ2重課税の調整は仕入税額控除で行われる。一方、アメリカの場合は、最終消費者に販売する段階で課税されるだけで、事業者間の転売は通常購入側事業者がResale Certificateを提示することによって課税しないシステムを取っている。簡単な例(税率5%と仮定)をもって説明すると以下のようになる。
(日本)事業者A売価(税込)105円→事業者B売価(税込)210円→最終消費者
(米国)事業者A売価(税無)$100→事業者B売価(税込)$210→最終消費者
この場合、日本では事業者AとBがそれぞれ5円ずつ納税することになるが、アメリカの場合、事業者BはResale Certificate をAに提示して無税で仕入れ、retailerとして$10を納税することになる。
2.アメリカにおけるインターネット販売への課税
アメリカの売上税は国税(連邦税)でないため、州外の事業者から州内の消費者への売上に関する課税については、州外の事業者が単に商品を州内に送るだけでは、その州外の事業者に納税義務を課せないという原則が維持されてきた。これは、合衆国憲法第1条8項にあるthe Commerce Clauseの要請に基づくものとされる。1992年のQuill vs.ノースダコタ州の判決でも連邦最高裁は、メールオーダーで事務用品の通信販売を州外から行っているだけのQuill社について、Quill社は州との実質的な関係を持っておらず、それに課税することは、憲法に反する負担を州際通商に課すものと判示してその立場を維持した。
それでは、インターネットで州外から購入したり、売上税がない州に最終消費者が出かけて買い物をすれば税の負担を完全に回避できるのかという疑問があがる。この点、法制度上は最終消費者自身がUse Taxとして売上税相当額を自己申告して納めるとして手当をしている。このUse Taxは、『使用税』と訳されることが多い。つまりSalesではなく“the storage, use, or other consumption of tangible personal property”(CA Revenue and Taxation Code Section 6201)に課税される税金である。具体的には、一般消費者は所得税の確定申告申告時に州外からの買い物にかかるUse Taxを申告することになっている。ただし、これはあくまでも自己申告制度となってるため、申告されないことがほとんどであり、一般消費者にこれを遵守させることは州当局もあきらめているようである。
このような要因もあり、アマゾンを代表とするインターネット小売業者が競争力を付け、取引額も各州当局にとって無視できないものになってきた。さらに、各州で店舗を持ち売上税を課税されている従来からの“bricks-and-mortar”型の小売業者からは、州内で大した雇用も生まないインターネット小売業者が不当に優遇されているという、ごもっともな理由として、公正な競争条件の確保の訴え強めていた。
3.「アマゾン税」の導入へ
上述したような状況を受け各州はインターネット小売業者に課税する動きに出つつある。カリフォルニア州についてその経緯を見てみたい。深刻な財政難を背景にインターネット小売業者のへ課税を検討していたカリフォルニア州は、昨年6月28日にRevenue and Tax Codeの改正案ABx1 28を成立させた。これは、上述のthe Commerce Clausによる憲法上の制約も念頭に、州内に在庫も販売拠点も持たないインターネット小売業者について、アフィリエイトの存在に目を付け、アフィリエイトが州内に存在すればカリフォルニア州で事業をしている(engaged in business in California)として納税義務を課したものである。具体的には、カリフォルニア州に存在するアフィリエイトとコミッションベースの契約関係があり、12ヶ月間の間にアフィリエイトから紹介された州内への売上が$10,000を超え、かつ、州内への売上の合計が$500,000を超えるインターネット小売業者が課税対象とされた。これは、いうまでもなくアマゾンを狙い撃ちにした改正で、「アマゾン税」といわれる所以である。
アマゾンは、それに対応してカリフォルニア州に存在するアフィリエイトとの契約を全て解除する対抗策に出るとともに、「アマゾン税」の廃止を2012年6月5日の住民投票の提案の一つに加えるキャンペーンを繰り広げた。しかし、3ヶ月後、不買運動や他州の動向を見て課税の動きは止められないと判断したのか、カリフォルニア州と「アマゾン税」の施行を2012年9月15日又は2013年1月1日まで延期することで合意し 、2011年9月23日新たな改正案AB 155が成立した。AB155の条項は6月のABx1 28の条項のうち「州内への売上の合計が$500,000」が$1,000,000になっただけで大きな変更はなく、施行が延期になっただけの決着となっている。
ところで、この「アマゾン税」だが、その性格は実は売上税ではなく、Use Tax(使用税)の特別徴収(代行徴収)である。カリフォルニア州に販売施設や在庫を持ち販売する小売業者は、上述したとおり売上税を課されるが、「アマゾン税」の対象となる州外インターネット小売業者はカリフォルニア州で小売業をしていると認定されたわけではない。課税されるのは、そのような州外インターネット小売業者から商品を買った最終消費者であり、Use Taxが課税される。ただ、アフィリエイトを設け、カリフォルニア州で事業をしている(engaged in business in California)と認定された州外インターネット小売業者に州がUse Taxを徴収する義務を課したという構成になっている。前述のQuill vs.ノースダコタ州のケースも問題になっていたのは、実は売上税の課税ではなく、Use Taxの徴収義務の負担であった。
4.「アマゾン税」の今後
カリフォルニア州の「アマゾン税」の施行は2012年9月15日又は2013年1月1日まで延期されたが、この背景には、連邦議会で進行中の全国で統一した課税方法の議論がある。現在、上院では"The Main Street Fairness Act"、下院では"The Marketplace Equity Act"といった州外小売業への課税方法を統一する議案が審議されており、カリフォルニア州の「アマゾン税」の施行日は、今年7月31日までに連邦がそのような統一した課税方法を立法しなければ、今年9月15日となっている。一方、7月31日までに連邦が立法したが、カリフォルニア州がそれを採用しないと決定した場合は2013年1月1日となっている。連邦レベルでの課税方法の統一法案は大統領選後にしか成立しないのではないかといわれており、このまま9月15日にカリフォルニア州で「アマゾン税」が施行される可能性が大きい。他にもテキサスでは、今年7月1日から課税が始まり、また、ネバダ州では2014年1月1日からの予定となっている。もうしばらくするとインターネットで買い物をしたら売上税を払わずにすんだという時代は過去のものになる公算は大である。
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更新日: 2012年06月04日