会計税務情報2001年6月号
永野森田公認会計士事務所
ブッシュ税制改正
-遺産税(Estate Tax)撤廃の本質-
経済成長と税軽減改正の名のもとに発表された大型減税の詳細が明らかになりました。一般的には、1981年以来と言われる超大型減税は、失速しつつあるア メリカ経済に、新たな活力をもたらすものとの期待が大きいものの、中味はその期待とはやや異なった内容です。1兆3500億ドルの減税のほぼ7割を占める のは家庭を対象とした減税で、投資や産業への直接的優遇策は見当たりません。最も注目されるのは、家庭における世代交代負担軽減を狙いとしたEstate Tax廃止の部分でしょう。又、見落としてはならないポイントの一つとして、今回の税改正は民主党との妥協の産物として、Sunset Clause付 きで決着しており、10年間の時限立法であることが挙げられます。即ち、この改正税制は2010年12月31日には消滅し、旧法に戻ることになっていま す。
最大の注目点は遺産税の撤廃でしょう。これは、10年間かけて、遺産税を撤廃するというもので、その間、非課税限度及び税率の変更により、税負担が逓減し ていく仕組みをとっています。然し、将来再度の法改正があれば別ですが、現在のままで推移するとすれば、この改正税制は2010年12月31日で効力を失 うので、遺産税がなくなるのは、2010年の一年間のみということになります。
年度 | 遺産税率 | 非課税限度 |
2001 | 55% | $675,000 |
2002 | 50% | $1,000,000 |
2003 | 49% | $1,000,000 |
2004 | 48% | $1,500,000 |
2005 | 47% | $1,500,000 |
2006 | 46% | $2,000,000 |
2007 | 45% | $2,000,000 |
2008 | 45% | $2,000,000 |
2009 | 45% | $3,500,000 |
2010 | 0% | 全額非課税 |
2011 | 55% | $1,000,000 |
時限立法とは言いながら、この10年間のみを見れば、遺産税負担は大幅に減額されることは間違いありません。然し、冒頭でも述べた通り、遺産税軽減の本来 の目的は家庭の税負担軽減にあり、特に遺産税については家族経営的中小企業で、折角創立者が築いたビジネスを次の世代が引き継ぐのを容易にする事への期待 が込められています。従って、新しい世代がそのビジネスを金に替えてしまうことへの歯止めがなければ、民主党の言う通り、金持ち優遇策の謗りを免れませ ん。そこで、2010年の遺産税撤廃年度においては、資産の取得価格(Basis)算定方法が変わり、それまでのStepped-Upから Carried-Overに変更されます。Stepped-Upとは、相続時点の時価が相続財産の取得価格となることを意味しており、相続時点で取得した 財産を処分すれば、所得税はゼロとなります。これに対して、Carried-Overは被相続人の取得価格か時価のいずれか低い方を相続財産の取得価格と するもので、大きな含み益を抱えている株式や不動産を売却すれば、多額の所得税がかかることになります。
同様の理由で、2010年においても、贈与税(Gift Tax)は維持されます。生前贈与による所得税回避対策と考えられます。尚、贈与財産については、今でもCarried-Over方式です。 因みに、日本の税制でもCarried-Overが使われています。
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更新日: 2001年06月01日