会計税務情報2001年7月号
永野森田公認会計士事務所
財務会計v.税務会計(第3回)
日 本の法人税の申告書中に別表四―所得の金額の計算に関する明細書―があるのと同じで、アメリカの申告書中にもM-1という表が組み込まれています。これ は、平たく言えば帳簿上の利益と税額算定の目的で計算された利益、即ち、課税所得との差異を纏めたところです。帳簿上の利益は通常会計原則に則って算出さ れているので、これを財務会計上での利益と言い直して宜しいでしょう。財務会計(今後“会計”と表現します。)は基本的に保守主義の原則で構築されている 為、利益なり資産を控えめにする傾向にあります。それに対し、税法は徴税を目的として構築されていることから、自ずと利益なり資産を積極的に増加させる方 向性をもつことになります。そして、独自の会計理論を展開する訳で、これを税務会計(今後“税務”と表現します。)と呼んでいるのです。本稿では数回に分 けて、二つの会計主義の違いと、その税金並びに会計への影響について解説しています。
資産と経費
資産と 経費。それは、異なるものにして、同時に類似性を共有する会計上の概念です。共通する点は(1)いずれもが現金資産の減少又は債務の増加の反対取引である こと(2)いずれもが使用価値を持っていることです。異質性は僅かに使用価値の期間にしか認められません。そして、その期間の判断は状況によって大きく異 なり、全てに通用するような客観的尺度はありません。機械、器具、建物といった有形資産については、両者の区分線である寿命が一年より短いか長いかの判断 は、然程困難ではありません。むしろ、常識の域を出ないと考えても良いでしょう。然し、無形資産の扱いを巡っての税法と会計との立場の隔たりは大きく、税 法が長期資産として5年-15年の償却期間を設定するのに対し、会計では、発生時点での経費化を義務つけるケースを含め、資産性を厳しく吟味することが求 められています。
税法における無形資産の扱い
1、会社設立費用 営業開始後5年間で定額償却(IRC248)
2、創業費、 営業開始後5年間の定額償却(IRC195)
3、暖簾、パテント、著作権、商標権他 営業開始後15年の定額償却(IRC197)
会計(注1)における無形資産の扱い
1、会社設立費用 発生年度の経費に算入(SOP 98-5)
2、創業費 同上
3、暖簾、パテント、著作権、商標権他 減損会計(注2)(SFAS121)
処 が、研究開発の分野ではむしろこれが逆転し、税法では即時償却を認めるのに対し、会計的考えでは、その経済性に注目する結果として、資産としてバランス シートに計上されることもあります。例えば、最近注目されることの多くなったコンピューターソフトの開発については、税法ではRev-Pro 69-21が、会計ではSOP98-1が、それぞれ、そうした対照的基準を明確にしています。
注1
研究開発に関する会計の基本的考えはSFAS 2に示されています。そこでは、研究開発活動の一連の流れの中で、経済的価値が確認される迄の段階を経費として一区切りし、それ以降の段階は資産の形成過程と認識されています。
注2
資産の売却価格か資産の現金収支を現在の価値に割り引いて得た金額の内、いずれか高い方を選び、その額 が帳簿価格を下回った場合、その差額の損失計上を義務ずける会計主義
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更新日: 2001年07月01日