会計税務情報2001年10月号
永野森田公認会計士事務所
財務会計v.税務会計(第5回)
日 本の法人税の申告書中に別表四―所得の金額の計算に関する明細書―があるのと同じで、アメリカの申告書中にもM-1という表が組み込まれています。これ は、平たく言えば帳簿上の利益と税額算定の目的で計算された利益、即ち、課税所得との差異を纏めたところです。帳簿上の利益は通常会計原則に則って算出さ れているので、これを財務会計上での利益と言い直して宜しいでしょう。財務会計(今後“会計”と表現します。)は基本的に保守主義の原則で構築されている 為、利益なり資産を控えめにする傾向にあります。それに対し、税法は徴税を目的として構築されていることから、自ずと利益なり資産を積極的に増加させる方 向性をもつことになります。そして、独自の会計理論を展開する訳で、これを税務会計(今後“税務”と表現します。)と呼んでいるのです。本稿では数回に分 けて、二つの会計主義の違いと、その税金並びに会計への影響について解説しています。
資産か経費か
教科書を 始めとして、およそ経理とか会計と名のつく本には必ず固定資産や原価償却についての説明がついています。説明は恐らく、機械、器具、土地、建物は経済耐用 年数が一年以上であり、こうした資産は固定資産として耐用年数で償却していくという流れになっていることでしょう。良く見てみると、その説明には、取得価 格の構成要素や耐用年数部分のみが強調され、金額についての言及が無いことに気がつく筈です。実は、会計においても税務においてもこの金額についてははっ きりした基準がないのです。
従って、各企業は独自に、経費にするか固定資産にするかの一定の金額的基準を定めなければなりません。その際、次の点を考慮するのが良いでしょう。(a)企業の資産規模、売上規模 (b)毎期反復的に同一基準が継続的に適用されること。(c)税法上の判例の動向。
表 面的には、税法は金額に拘わらず、例え1ドルの物でも償却対象という頑なな立場を貫いているように見うけます(IRC263(a)(1) Reg 1.263(a)-1 and –2,救済措置としてIRC179、 因みに、日本の税法では取得価格20万円未満の小額原価償却資産を経費算入としている。)。然し、判例で見る限り、明白なガイドラインは示されておらず、 未だに手探りの状態と言っても過言ではありません。
参考になる判例としては、Union Pacific Railroad v. U.S. Alacare Home Health Service v. U.S.を挙げることが出来ます。前者は1940年代の判例で、$500の基準を設けた納税者側の主張が通ったケースで、後者は同額を計上基準としたにも 拘わらず、その主張が認められなかった最近のケース(1995 及び1996)です。
1, Union Pacific 鉄道会社のUnion PacificはInterstate Commerce Commission の指示もあって、$500以下の固定資産を全て消耗品として、その期の経費処理した。IRSはこれを認めず、争った結果、裁判所は、$500の基準設定は IRC446(b)の言う、納税者の所得を正確に反映する会計システムの構築義務に抵触せず、Union Pacificの勝訴とした。
2, Alacare この事例では、Alacareが同額の$500を固定資産扱いの下限と定め、Union Pacificと同様の経費処理をし たのにも拘わらず、裁判所はIRSに軍配を上げた。その理由として裁判所は、鉄道会社のケースでは、固定資産下限設定によって経費となった額は総収入の 0.05%にしかならないのに対し、本件では同比率が95年で165%、96年で84%と極端に高かったことを挙げている。
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更新日: 2001年10月01日