会計税務情報2005 年11 月号
永野森田米国公認会計士事務所
日本企業の米国への進出形態と税務(その2)
前月より、日本企業が米国に進出する場合に必要となる税務に関し進出形態別に検証していますが、今回は駐在員事務所に焦点を当てます。
駐在員事務所の連邦レベルにおける税務
企業が米国に駐在員事務所を設ける理由は多数ありますが、最も典型的な例は日本の本店の為に市場調査等の情報提供活動を施したり、広告宣伝を行うことを目 的に設置されるケースであると考えられます。駐在員事務所の業務内容が本店のための補助的な性格の活動をする事に限られるならば、駐在員事務所としての売 上げはありません。しかしながら、連邦(IRS )に対する法人確定申告書の提出は義務付けられています。この場合、日本の本店の会計期末より2 ヶ月半以内に、外国法人用確定申告書(Form 1120-F)を提出することが求められます。
日米租税条約と駐在員事務所の関わり
前号におきまして、日本企業の米国内における活動が連邦税の課税対象となるか否かは、日米租税条約を基準にして決定される旨ご報告しました。同租税条約で は、日本企業の米国内に所在する事業所が、本店に対する補助的な活動(情報収集等)のみ行っている場合、連邦税の課税対象とならないとしています。駐在員 事務所は元来独自の売上げのないいわばコスト・センターであり、租税条約により免税の扱いを受けても、一見恩恵は無いとも考えられます。租税条約による免 税扱いが意味合いを持つのは、以下のような状況が生じた場合です。
【例】
日本の商社であるA 社は、米国市場に関わる情報収集を目的とした駐在員事務所を設立した。駐在員事務所を通じて収集、分析された情報は社内において活用されていたが、ある年 米国法人であるB 社からの求めで、既存の社内向けレポートを再編集し、市場価格でB 社に提供した。
上記の様に、駐在員事務所において偶発的にセールスがあった場合には、外国法人用確定申告書(Form 1120-F)に、租税条約上の開示の様式(Form 8833 )を添付して提出することによって、非課税扱いすることが可能です。
確定申告書(Form 1120-F )上で報告可能な経費について
既述の例においては、租税条約上の開示の様式(Form8833)を確定申告書に添付したために、駐在員事務所が上げたセールスが非課税となりました。も し租税条約を利用しなかった場合、情報提供料として得たセールスに対して相殺可能なコスト額は、以下の式にて計算します。
駐在員事務所の全コスト* X (駐在員事務所の売上げ/会社の全世界売上げ) = 確定申告書(Form 1120-F)上で相殺可能なコスト
上の式で、仮に駐在員事務所の売上げが会社の全世界売上げの100 分の1 であった場合、情報提供料として得たセールスに対して相殺可能なコストは、駐在員事務所の全コストの100 分の1 になります。租税条約を利用して、セールスを非課税とすることが、賢明であることがわかります。租税条約を利用せず、確定申告をする場合に、収入と相殺で きるコストが少ない理由は、既述の通り駐在員事務所は“本店に対する補助的な活動(情報収集等)のみ行っている”ため、コストの相殺対象となる収入は本店の収入であると、税法上規定しているからです。拠って、通常駐在員事務所のコストの大半を占める駐在員の給与等は、連邦税務上日本で発生したコストと捉えられ、駐在員事務所が提出する連邦確定申告書には、反映されません。
駐在員事務所が州に対して行う確定申告の内容は、連邦に対するものと比較し、かなり異なります。次回は、州レベルの税務について検証いたします。
*駐在員事務所で発生したコストのうち、社内向けレポートの再編集に直接かかった実費(印刷代、送料等)は、この按分式の対象とならず、全額セールスに対し相殺できます
更新日: 2005年11月01日