会計税務情報2005 年12 月号
永野森田会計士事務所
アメリカの税制の基本原理(1)
今年からCPA や弁護士など、税務に携わる専門家の責任が更に重くなりました。KPMG に代表される、こうした専門家のアグレシブなタックスシェルターに腹を立てたのか、当局は租税回避を目的とした文書によるアドバイス(Covered Opinion)には合理的な根拠がなければならず、さもなくば、厳罰に処するという通達を出しました(Circular 230)。合理的な根拠としては、Internal Revenue Code,Treasury Regulation,Revenue Rulings,Revenue Procedures,Letter Rulings と裁判所の判断(Judicial Interpretation)などが挙げられます。今回は、以上の根拠法規並びに司法判断の根底に流れるアメリカ税制の基本原理を考察することにしま す。これを理解すれば、例え、複雑な税法の迷路に迷い込んだとしても、そこから脱出する為のヒントが得られるに違いありません。
所得配分の原理(Assignment of Income Doctrine)
Lucas V Earl (1930)で確立された、所得の実質的な利得者が税負担を負うという考え。
事例―個人営業を営んでいたセールスマンが株式会社を設立し、以前は個人的に得ていた収入を会社が受け取り、本人は給与を貰う形に変更したケース。Tax Court は、当該原理に言及した上で、収入は法人でなく本人に帰属すべきものと判定した(Fogelsong)。
事例―2 つの会社A,B を支配する個人X が、A の使用人としてB に役務を提供した。B はA に対し、両者間の役務契約により多額の報酬を支払ったが、X がA から得た給与は、その一部にしか過ぎなかった。Tax Court は、B が支払った報酬は全額X に帰属すると判定した (Rubin)。
実質主義の原理(Substance over Form Doctrine)
取引形式と経済的実質が異なる場合、税法の解釈適用は後者に合わせるべきであるとの立場を意味する。
事例―X は賃貸不動産を保有するパートナーシップA のパートナーである。A は不動産を売却する契約をB と結んだ。売却手続きが完了する前に、X はA の持分に相当する不動産の持分を取得した。B は、代金の内X の持分相当額をX の指定するトラストに送金し、トラストは、その資金で新たに不動産を購入。これを、X に譲渡する手続きをとった。X は、1031非課税交換が成立したと主張したが、IRS は実質的には不動産売却→X の不動産持分取得→新たな不動産取得と解釈、X の主張を退けた(Chase v Commissioner)。
段階取引の原理(Step Transaction Doctrine)
日本の諺でいえば、木を見て森を見ない税法解釈を非とする立場。つまり、個々の事象でなく、全体の流れを把握して判断するべきであるとの考え方を意味する。
事例―個人X は株式会社P の71%の株を保有する株式会社A の100%株主である。P の残り29%の株はX のトラストが保有している。X はトラストからP の29%株を買い取り、その後、P を清算、Code 332 によりトラストから簿価を引き継ぐことにより、非課税取引を演出した。これに対し、IRS は、一連の流れは、租税回避行為であると主張。P の29%株をX でなくA が取得していれば、Code 304(関連会社を通して自己株式を取得した場合の支払い対価を看做し配当とする条項)により、トラストは配当所得を認識しなければならなかった筈だとい う理由付けをした。
更新日: 2005年12月01日