会計税務情報2006 年1 月号
永野森田会計士事務所
アメリカの税制の基本原理(2)
税 法は複雑であるが故に、その解釈に当たっては常に原点に立ち帰ることが肝要であります。原点からあまりにも遠ざかってしまいますと、解釈の相違だけに止ま らず、租税回避行為の烙印を押される恐れすらあります。前月号で触れた所得配分、実質主義、段階取引の諸原理は、何れも租税回避行為の判定基準とも言える のです。税制の本質を理解するために、引き続き今月も基本原理について考えていきましょう。
継続性の原理 (Quasi-Estoppel Doctrine) 一つの事象に対し、年度をまたがって異なる立場をとることを禁止する考え。Duty of Consistency とも言う。
事 例―納税者A は、過年度に立替経費の返戻金として経費算入していたところ、後年度になって、それは間違いで貸付金であることに気がついた。返済金は課税所得にはならな いことから、返済金の扱いについてIRS 内部の見解を求めたところ、以前の誤りを後日正すことにより、結果的に課税を免れるのは禁反言の原則に反するとの判断が示された。 (InternalService Memorandum FSA9999-9999-309)。
業務目的性の原理 (Business Purpose Doctrine) 商行為の背後には、租税回避以外の動機がなければならないとする考え。「納税者が税額を軽減又は回避する法的権利を有することに疑いはないが、その正当性 を主張するには、税以外の目的が存在するかどうかが問われる。」(Gregory v.Heivering)類似の概念として、経済的実質の原理(Economic Substance Doctrine)がある。
事 例―宝くじが当たったG は、節税策として$945,000 を年利4%で借入れ、利回り年利2%の$1,000,000 の国債を購入した。G は、$81,396 の金利を前払いし、$145,000 の賞金から控除した。裁判所は借入れの動機には、支払利息の控除から得られる税軽減利益以外に合理的理由が見つからないとして、支払利息控除を否認した。 (Goldstein v Commissioner)。
事例―S は年度終了直後に満期の来る国債を購入した。購入に当たっては、国債を担保とした。その狙いは、支払い利息の殆どは国債購入年度内に発生させ、利息収入 は、翌年に繰り延べることであった。裁判所は、受取利息と支払利息は相殺されるべきものであり、租税回避以外の経済的目的性を認めなかった。
優遇税制の原理 (Tax Benefits doctrine) 租税軽減等の利益を享受した後、事情が変わり、利益享受の前提が崩れた時は、享受した利益を返上すべきであるとの考え。(Estate of Block v.Commissioner)
事 例―M は、消費財のメーカーとして、長年研究開発に費用を投じてきたが、政策転換により、開発した無形資産(パテント等)を第三者に売却した。研究開発費は、 Code 174 で特別に当期経費として控除が認められている。これは、経済耐用年数が複数年度に及ぶ資産の取得及び製造に関する税法の原則的立場と相容れない措置であ る。故に、本来なら、M が過年度に研究開発費として控除してきたことで得た税務上の利益は、当該原理により返上されるべきである。然るに、研究開発費控除については、その立法趣 旨に鑑み、当該原理を適用するのは適当でないと判定された。(Rev Ruling 85-186)
更新日: 2006年01月01日