会計税務情報2006年7月号
永野森田会計士事務所
日本居住者が米国LLCを通じて得た所得に対する課税について
新日米租税条約の第4条6項におきましては、日米両国間で課税上の取り扱い方が異なる事業体を通じて受け取る所得につき租税条約の特典が享受できるか否か 定めております。米国LLCの多くは米国税務上、パス・スルー事業体として扱われておりますが、日本では逆にそれらを団体課税の対象となるべきと見なすの が主流な為〈http://www.nta.go.jp/category/tutatu/sonota/houzin/05/01.htm〉、上記条項 が米国LLCに投資している日本居住者にとって米国申告上重要な意味を持つ事になります。今月は、米国LLCが、日本居住者であるメンバーに配分する分配 金に対する米国課税の問題につき説明します。
1.租税条約の規定について
新日米租税条約は、所得源泉地国である一方の締約国に設立された事業体を通じて、他方の締約国の居住者に分配された所得は、他方の締約国の税法上、事業体に帰属されると見なされる場合において、租税条約の対象にならずと規定しています。米国でパス・スルー選択しているLLCに出資している日本居住者が、同LLCより収益を分配される場合、同収益が日本の国内法に鑑み事業体所得と判断されるか、個人に帰属すると判断されるかで、以下のような違いが生じます。
〈例1:収益が個人に帰属するとして扱われる場合〉
配当所得 → 米国LLC → 日本居住者 日本での税務:
使用料 → (パススルー) → (メンバー) メンバーでは、米国より配当、
利息所得 → → 使用料、利息所得をLLCを通じ
て受け取った旨申告する。
〈例2:収益が米国LLCに帰属するとして扱われる場合〉
配当所得 → 米国LLC 日本居住者 日本での税務:
使用料 → (パススルー)⇒配当⇒ (メンバー) 配当、使用料、利息所得はLLC
利息所得 → に帰属すると見なされるため、受
取った分は配当と申告される。
2.租税条約不適用の弊害
上記例2のように、LLCからの分配金が日本の申告上LLCに帰属する旨扱われる場合、同分配金に対する米国税を租税条約を用い減免する事は出来ません。 また、米国側からすると、分配金はあくまでもパス・スルーの原則に基づくLLC所得の配分ですので、それを配当金である旨米国税務上性格付けし、10%の 軽減税率(メンバーが個人の場合)を適用する事も出来ません。租税条約不適用による弊害の具体例は以下の通りです。
• LLCより事業所得を受け取る場合、租税条約が適用されれば、課税範囲(対米国連邦)はLLCが保有する恒久的施設に起因するものに限られます。租税条約が適用されない場合、通常全ての事業所得が課税対象になります。
• LLCより非事業所得(FDAP 所得)を受け取る場合、租税条約が適用されれば、低減税率が用いられますが、租税条約が適用されない場合、30%の源泉徴収が課される場合があります。
3.実務的な対応について
租税条約の原文及び米国財務省解説書(テクニカル・エクスプラネーション)は、米国LLCが日本居住者に配分した分配金については、同分配金の日本申告上の取り扱われ方が、租税条約の適用可否の決定要因であるとしています。分配金が日本申告書上米国LLCの所得として扱われる(その結果、配当に適用される税率が日本で課せられる)場合、米国は租税条約の運用上は、同分配金を米国法人の所得と見なし、租税条約の適用対象外とします。つきまして、日本申告書上LLC分配金が配当扱いされた場合は、租税条約適用不可能、反対に同分配金が雑所得として報告された場合には、租税条約適用可能とするのが、現実的な対応と考えられます。
更新日: 2006年07月05日