会計税務情報2006年8月号
永野森田会計士事務所
日米税務比較-個人所得税編
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先月、世界的ベストセラー「ハリーポッター」の翻訳で有名な、松岡佑子さんが東京国税局から35億円の申告漏れを指摘されたというニュースが流れました。 どうやら、本人は外国にマンションを買い、住民票もそこに移した事により、日本では非居住者として翻訳料の20%の源泉税のみを納めていた処、東京国税局 は、頻繁な日本との往復の事実関係から、居住者と認定。日本居住者としての最高50%の所得税を課した結果のようです。(個人)所得税は、個人に対する租 税であり、日本においても米国においても租税制度の中心を占めています。従って、両国とも、この財源を重視する反面、その税制の相違が矛盾を生み、納税者 にとって過重の負担となる危険性を孕むことになります。上記事例で言えば、日本税法で言う居住者、非居住者が市民の国際的移動を前提とした米国のそれと同 じであれば、この争いは起らなかった筈のものでした。今回は、この個人所得税について、制度面から日米の相違点を探ることに致します。尚、書面上の制約に より、日本は国税、米国は連邦所得税に限定致します。
1.概要
日米の(個人)所得税はともに公平課税のために、包括的所得概念(人の担税力を増加させる経済的利得は全て所得を構成する)と超過累進税率(所得が高くな るほど限界的な税率が高くなる仕組み)の採用を特徴とする。然し、視点を変え、各論的な見地から観察すると、その社会政策的相違の影響を随所に確認するこ とが出来る。例えば、日本のH18年度の税制改正により創設された「地震保険料控除」と、米国の「養子縁組費用税額控除」などは、その一例である。 さら に、公平課税に関して言えば、米国は「代替ミニマム税(高所得者が所得に応じた税金を支払っていない場合に、一般に適用されている優遇制度が認められな い。)」を採用していて、日本より税負担の公平性が一層図られていると考えられる。又、納税義務者の範囲や課税単位と言った所得税の基本部分についても、 顕著な相違点が認められる。
2.日米の(個人)所得税の対比表
項 目 日 本 米 国 .
所得税 個人に対する課税 個人・法人の両方を指す
納税義務者 個人 個人
課税年度 暦年単位 暦年単位
納税義務者の範囲 居住者(注1):全世界所得 市民、居住外国人(注2):全世界所得
非居住者(注1):国内源泉所得 非居住外国人:国内源泉所得
課税単位 個人単位課税 個人単位課税・夫婦合算課税
の選択適用
課税標準 総所得金額;所得を利子、 全所得を基に計算した
配当、不動産事業、給料等 課税所得;総所得から
10種類に分類し、それぞれ 所得調整控除、標準控除
所得金額を計算し合算する。 (あるいは実額控除)、
人的控除を引いて求める。
税率適用前 基礎控除、配偶者控除、 ①調整後総所得前控除
の控除 扶養控除(それぞれに38万円) ②実額控除(医療費、税金、
(日本では 医療費控除、社会保険料控除、 支払利息、慈善寄付金、
所得控除という。) 生命保険料控除、損害保険料 災害・盗難損失、雑控除)と
控除、寄付金控除、 標準控除(Single$5,000,
寡婦/寡夫控除、勤労学生 Headhousehold$7,300,
控除、障害者控除、地震 Married filingjointly$10,000,
保険料控除(H19年分より Married filing separately $5,000
適用)等 注3)の選択適用
③人的控除;納税者、配偶者、
扶養親族 それぞれに
$3,200(注3)
税率 超過累進税率 超過累進税率
税額控除 配当控除、外国税額控除、 外国税額控除、
住宅借入金等特別控除、 養子縁組費用税額控除、
源泉徴収税額等 扶養家族税額控除、
生涯学習税額控除等
納税手続き 申告納税又は源泉徴収 申告納税
(年末調整)
.
注1:
居住者・・・国内に住所(生活の本拠)を有し、又は現在まで引き続き1年以上居所を有する個人で次の者を言う。
1 非永住者・・居住者のうち、国内に永住する意思(注)がなく、かつ、現在まで引き続いて5年以下の期間国内に住所又は居所を有する個人。非永住者は、 居住者のうち日本国籍を有しておらず、かつ、過去10年間のうち5年以下の期間国内に住所又は居所を有する個人となる。ちなみに、非永住者は、国内源泉所 得と国外源泉所得のうち国内払い・国内送金分に限り課税される。
2 永住者・・・居住者のうち、非永住者以外の個人(日本国籍を有するものは、これに該当する。又、逆に、日本国籍を有しない者は、国内に永住する意思がないものと推定される。)
非居住者・・居住者以外の個人(一年以上海外で勤務する日本国籍を持つ海外駐在員はこれに該当する。帰国年度については、国内に住所を有することになり、居住者に該当する。)
注2:
居住外国人・・米国内に滞在する外国人のみならず、米国外に滞在する米国のグリーンカードホルダーを含む。
注3:2005年度
更新日: 2006年08月08日