会計税務情報2006年9月号
永野森田会計士事務所
日本の会社法の変更ポイント
会社法が平成18年5月1日に施行され、最近の社会経済情勢の変化に対応して、最低資本金制度、機関設計、合併等の組織再編行為等の会社に係る各種の制度 が整備されました。今回は、まず、会社法による変更点をさぐり、次に新設された日本LLC、日本LLPついて検証します。
Ⅰ.平成18年5月1日施行の会社法は、従来の商法「第2編会社」、商法特例法、有限会社法を廃止して会社法として1つに統合されたものです。条文は、カタカナ文語体から現代語化・口語化に変更されています。新しい会社法での変更点をまとめると次のようになります。
1.中小企業のための改正
①最低資本金制度が撤廃され、わずか1円の資本金で株式会社を作ることが出来るようになりました。
②会社の機関設計が自由になりました。(取締役1名、取締役の任期10年、監査役の代わりとしての会計参与の選任等が可能となりました。)
③有限会社(注1)が廃止され、株式会社に統合されました。合同会社(注2)という新しい種類の会社が創設されました。
2.大企業のための改正
①M&Aのための組織再編手続きの簡素化・柔軟化
②株式制度の柔軟化
注1:有限会社
会社法の施行後は、有限会社法は廃止され、有限会社は法律上は会社法上の株式会社(登記等の特別の手続きは必要なし)となります。そして、称号は、引き続き「有限会社」を用います。
注2:合同会社(LLC)
会社法では、新たな会社組織として合同会社(LLC:条文ではLLCの文字は使われていません。)が創設されました。 LLCは、【Limited Liability Company】の略で、アメリカでは既に普及している会社組織です。
Ⅱ.合同会社(LLC)
LLCは、株式会社と同様に法人格を持つ会社ですが、株式会社に比べかなり柔軟に自分たちでルールを定めて、会社を運営していくことが可能です。米国のLLCと日本のLLCと日本の株式会社の特徴をあげると次のようになります。
1.米国のLLC
①各州のLLC法により設立②構成員(出資者)の有限責任制③構成員の数の制限なし④構成員の持分は譲渡可能⑤法人課税とパススルー課税との選択適用⑥存続期間は有限
2.日本のLLC
①会社法により設立②持分会社:所有と経営の一致③構成員の有限責任性④会社経営は、出資者間の合意によって、比較的自由に決めることが出来ます。⑤法人課税
3.日本の株式会社
①会社法により設立②株式会社:所有と経営の分離③社員・株主の有限責任性④株主総会と取締役1名必要⑤法人課税 等
Ⅲ.有限責任事業組合(LLP)制度
米国LLCは、法人課税かパススルー課税かのいずれかを選択することができますが、我国のLLCは、パススルー課税を選択することは出来ません。我国にお いてこのパススルー課税を選択できる事業体として、「有限責任事業組合(LLP)」をあげることが出来ます(2005年8月施行)。
1.特徴
・LLPの出資者全員に有限責任制を付与
・貢献に応じた柔軟な損益配分
・LLPに対する構成員課税の適用( 損失:各組合員の所得と通算、利益:各組合員の利益分配に直接課税)
2.活用分野としては、法人や個人が連携して行う共同事業があげられます。
・大企業同士が連携して行う共同事業(共同研究開発、共同生産、共同物流、共同設備集約など)
・ベンチャー企業や中小・中堅企業と大企業の連携(ロボット、バイオテクノロジーの研究開発等)
・異業種の企業同士の共同事業(燃料電池、人工衛星の研究開発など)
・産学連携(大学発ベンチャーなど)
3.手続き
①立上げ
・組合員が、LLP契約を締結
・出資金の払込み(現物出資の場合には、その全部の給付)
・所轄法務局に組合員契約の登記
*公証人による定款認証の必要なし。産業経済省の認可や許認可の必要なし。
*登録免許税 6万円
②主資金 出資金は1円以上です。また、組合契約締結のため、最低2人の組合員が必要ですので、LLPとしての最低出資金は2円となります。 また、動産、不動産、有価証券、特許など知的財産権の現物出資もできます。
③運営 取締役会、社員総会等の機関を置く必要は無く、LLPの業務執行に関する意思決定は、原則として、総組合員の全員一致で行います。また、組合員は全員が業務を執行しなければなりません。
非居住者・外国法人は、LLPの組合員になれますが、全員が非居住者・外国法人であることは認められず、最低1人(1社)の組合員は、居住者・内国法人でなければなりません。
④税務
・LLPは、設立時に貸借対照表を作成し、毎事業年度ごとに貸借対照表、損益計算書、及びその付属明細書の作成が義務づけられています。
・公告の義務はありません。
・事業を通じて取得した財産を、組合員の含有財産である組合員財産とすることは可能です。組合財産として留保しても、組合事業から生ずる損益は全て組合員に帰属し、財務上も各組合員において課税されます。
・税務申告は各組合員が、事業年度ごとに行います。会計期間が終了する日が属する年の翌年1月末までに、各組合員の所得に関する計算書を税務署に提出しなければなりません。
会計年度が1/1~12/31の場合に、計算書の提出期限が翌年1/31となりますが、この計算書は、法定調書としての性格(確定申告書の準備)を有するもので、提出が遅れても罰則はありません。
更新日: 2006年09月05日