会計税務情報2006年12月号
永野森田会計士事務所
日本版SOX法概説(2)~日本版SOX法の草案公表へ
これまで「ナゾ」とされた日本版SOX法の全貌は、いよいよ明らかになりつつある。2006年11月21日に金融庁により公表された「内部統制の評価及び 監査に関する実施基準(以下、実施基準)」の公開草案により、日本版SOX法の具体的な範囲と実施要領は見えてきた。前月号では、これまでの経緯として今 年6月に金融商品取引法の制定(旧証券取引法の全面改訂)、公開企業グループの内部統制報告義務については2008年4月1日以後に開始する会計年度、即 ち、2009年3月末期から適用されることや、株式未公開の「大会社」についても、金融商品取引法の1ヶ月前に誕生した会社法の下で、コーポレートガバナ ンスが強化された事等について述べている。今月では、この公表されたばかりの「実施基準」の公開草案を踏まえ、在米子会社の実務対策について考察する。
1. 公開草案の骨子
―その範囲―
金融庁の企業会計審議会から草案が公表されるのに先立ち、日本の有力経済紙は「内部統制ルールの企業負担に配慮し、内部統制評価の対象は連結ベースで売 上高の2/3までの事業所並びに子会社を対象にする」といった趣旨の記事を掲載している。これは一見、公開企業グループのなかで相対的に売上高の小さい会 社は、この内部統制の報告義務からは全面的に「免除される」という、考えを与えかねない内容となっている。
しかし、93ページに及ぶ実施基準の公開草案を良く読むと、違う内容が見えてくる。つまり、「売上2/3基準」については、「売上・売掛金・棚卸資産」 などと重要勘定に係わる個別の「業務プロセル」評価が決定される際に用いられる範囲基準である。一方、この「業務プロセル」評価に至る前には、企業グルー プ全体に対して行われる「全社的プロセス」の評価を行う必要がある。この「全社的プロセス」の評価については、すべての海外子会社を対象に実施されなくてはならないことになっている。また、個別の業務プロセス評価のなかでは、見積もりや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に対する内部統制の評価を行わなければならず、ここではたとえ売上2/3基準から除外された海外子会社であっても、この分野で特にリスクが高いと判断された場合、この業務プロセスの特別に評価しなくてはならない点も見逃すことはできない。
―実施要領―
具体的な内部統制評価手順は次の通りである。第1にプロジェクト方針を確定させるために、チーム編成、評価範囲策定、スケジュール確定、予算編等を行う こととする。第2に全社レベルでの評価として、経営者およびマネジャーに質問と査問を行い、その内容を分析すると共に、IT全般の統制評価も行う。第3に 業務プロセスの評価を行い、ここで内部統制文書化、整備状況評価、運用状況評価(テスト)を実施する必要がある。第4に外部監査対応を進めるため、外部監査人と評価範囲合意、テスト方法合意、不備の評価方法合意、評価結果合意と続いている。
2. 内部統制の文書化とは何か
会社にとって最も負担の大きいと思われる、上記の業務プロセスの評価の中での内部統制の文書化の定義としては、
•経営者による内部統制の有効性の評価に先立ち、財務報告に係る内部統制の整備及び運用の方針及び手続きを定め、それらの状況を記録し、保存しておくことである。
•具体的には各重要業務プロセスに於いて、以下の情報を体系的に記述するものである。
1) 財務報告上重要な取引が、どのように発生し、承認され、記帳され、処理され、報告されるか
2) 重要な取引に於いて、財務報告上どのようなリスクが存在するか
3) リスクを低減するために、どのようなコントロールが存在するか
4) 内部統制の整備状況及び運用状況は有効か
•より具体的に表現するならば、次の通りの作業手順となる
1 文書化準備段階
••文書化対象取引、組織、サブプロセスの確認
••業務ステップ、担当部門の把握
••既存文書確認
2 業務フローチャート作成(業務や作成した文書・データの流れを図式化した文書であり、業務の流れを第三者が容易に理解できるようにするための補助資料である)
••業務フローインタビュー
••フローチャート化
••業務記述書作成
3 リスクマッピング
••固有リスクの洗い出し
••リスク発生箇所の洗い出し
4 コントロール特定
••各リスクを低減するためのコントロールの特定
••コントロール分類
これらの文書化プロセスにおいて、財務報告上のリスクを洗い出すための「リスクマッピング」が最も重要な文書化のステップである。
尚、文書化手続きについては、2006年12月1日の当所主催の内部統制文書化体験セミナー(場所:ロサンゼルス)で一部ご紹介しており、また今後のセミナー・研修などを通じて随時公開リリースする予定である。
更新日: 2006年12月05日