会計税務情報2007年6月号
永野森田米国公認会計士事務所
Water’s Edgeに関する規則の一部変更
カリフォルニア州内で企業活動を行っている経営者は、Water’s Edge Electionという同州独特の税制度を知ることになろう。同制度は、カリフォルニア州の法人については、これに関連する会社の世界中の利益すべてを、 合算ベースで法人税申告しなければならないとするUnitary Tax制度に対し、Water’s Edge Electionを選択することにより、水際の外(米国国外)にある関連会社の利益を排除できる、という免除規定に他ならない。一方、1992年より、海 外関連会社で得られた受取利息、使用料など「非事業所得」については、このWater’s Edge Electionを選択したとしても、Unitary Groupの合算対象としなければならないとされてきたため、この適用は多くの関係者を困惑させてきたのも事実である。今月は、この非米国企業 (80/20 Corporation(注)の基準を満たした非米国企業)の米国関連会社から受け取る非事業所得について、2007年2月22日にWater’s Edgeルールの一部変更があり、これについて説明する。
1. Water’s Edge Election
カリフォルニア州税務当局(FTB)に対しWater’s Edge Electionを選択している米国子会社は、これまで以下の2つの類の所得につき申告義務が課せられてきた。
A. 米国内にて営む事業から派生した事業所得
B. その米国子会社より受け取った同一のUnitaryグループに所属する会社の非事業所得(non effectively connected income、利息、使用料等)
上記A.に該当する所得は、米国内に所在する恒久的施設等を通じて上げられた事業所得が考えられる。他方B.については、多くの場合、50%超の株式関係 にある米国子会社より、受け取った日本親会側の非事業所得すべてについて適用されてきたのである。そのため、利息や使用料を米国子会社より受け取ってい た、Unitaryグループに属する多くの日本企業において、その影響は及んでいた。しかしながら、2007年2月22日、カリフォルニア州税務当局は、 上記Bに該当する所得については、申告の対象外とする旨の発表を行ったのである。
2. 新・旧ルールの比較
(状況)
日本の株式会社である、P社(Parent)はコンピューター・ソフトウェアの製造、販売を日本国内で行っている。カリフォルニア法人であるS社 (Subsidiary)は、P社の100%米国子会社で、米国にてP社のソフトウェアを複製、販売している。2007年度においてS社は、P社に利息 (Interest)及び使用料(Royalty)を計1,000,000ドル支払った。米国で事業を行っていないP社にとっては、これら所得が唯一の米 国源泉所得であった。
(分析)
カリフォルニア州においてP社とS社は、Unitary グループとして扱われるため、原則合算ベースで納税額を計算しなければならない。旧ルール下では、S社はたとえWater’s Edge選択をしたとしても、P社の受け取った1,000,000ドルの所得をS社の所得に合算して報告しなければならなかった(結果としてS社の計上した計1,000,000ドルの支払利息、使用料経費は親会社の受取所得と相殺されてしまった)。然しながら、ルール改正により、P社の1,000,000ドル所得は申告対象外となり、結果としてUnitaryグループの課税所得は1,000,000ドル減額となる。
3. 新ルールの日系米国子会社への影響
新ルールの下、米国子会社より日本の親会社の受け取った利息、使用料等の非事業所得はカリフォルニア州申告書において申告対象外となった。結果としてカリフォルニア申告書上にて子会社の経費は、親会社の所得と相殺されてしまうといった皮肉な状況は、ここで解消されたのである。
日本など海外に本拠地(Domicile)を持つ非米国企業が受け取る非事業所得を申告させていたこれまでのカリフォルニア州当局のスタンスは、州に与え られた徴税権を越えるものであり、1992年に同ルールの採択以来、納税者並びに税務関係者を困惑させて来た。今回のルール改正により、遅ればせながら も、不公平さは是正されたものと考える。
(注)米国内のProperty, Payroll及びSales Factorの平均が20%以下の企業。
更新日: 2007年06月08日