会計税務情報2007年8月号
永野森田会計士事務所
国際財務報告基準(IFRS)の概説(5)~米国監査基準と国際監査基準との違い
会計は大きな転換期を迎えている。日本の大企業に限らず、日米欧の経済活動範囲は地球レベルで展開されており、研究開発や生産、運輸そして販売の国際化と 軌を一にして資金調達が国境の枠を越えて活発に展開されるという流れがその背景にある。結果として、日米欧の会計方法は、独自の立場を主張しつつも、統一 基準に収斂しつつあり、近い将来において、この共通基準としての国際会計基準の採用を余儀なくされることと考えられる。本稿においては、数回に分けて、米 国基準と対比する形で、国際財務報告基準(International Financial Reporting Standard-International Accounting Standards Boardによって策定された会計基準の総称)を考察することにする。今月は米国監査基準と国際監査基準との違いをテーマとして取り扱うことにする。
1. 収斂(しゅうれん)する米国および国際監査基準
会計基準が世界的規模で統一・統合されてゆく流れの中において、必然的に監査基準も、統一・統合の方向に向かっている。米国監査基準も例外ではなく、特に 近年公表されている監査基準においては、国際監査基準を念頭に置いたものが多くなってきている。これは、米国監査基準を発行しているASB (Auditing Standards Board) 及び国際監査基準を発行しているIAASB (International Auditing and Assurance Standards Board)が、それぞれの監査基準間の差異について検証し、収斂(Convergence)作業を進めていることに起因している。
むろん、現時点においては、米国監査基準に準拠している事は、そのまま国際監査基準に準拠している事にはならないのである。従って、米国進出日系企業は、 監査を現地会計事務所に任せる場合、具体的に米国と国際監査基準間でどのような差異が生じているかについて、把握することが必要になってくるかもしれない のである。
今回は、そうした現状を踏まえた上で、明らかに監査基準差異が生じている部分を2点紹介することにしたい。
A. 監査報告書における倫理要件の遵守に関する記載
米国監査基準においては、監査報告書に「倫理要件」の遵守に関する記載は要求していない。他方、国際監査基準では、下記のように倫理要件の遵守に関する記載を要求しているのである。
… The auditor’s report should also explain that those standards require that the auditor comply with ethical requirements and that the auditor plan and perform the audit to obtain reasonable assurance whether the financial statements are free from material misstatement …
参考資料:ISA (International Standard on Auditing) 700 The Independent Auditor’s report on a complete set of general purpose financial statements, para. 34
つまり、国際監査基準によると、監査人は倫理規定にそった監査を行った旨を、きちんと監査報告書に記載しなければならないこととなっている。
尚、米国監査基準(ASB)では、上記のような倫理要件の遵守に関する記載を監査報告書上で行うと、米国固有の状況(米国公認会計士の会員制度や法令に関 するフレームワーク)との不整合が生じ得るとの見解を示している。例えば、米国では各州ごとに会計士の資格要件は異なっており、そのため各州ごとに米国の 倫理規定の取り扱い状況はまちまちとなっている。こうした現状下、米国の会計士・監査人に対して一律に「倫理規定の遵守」は強要することは、制度的に難い ということなのである。
B. 監査調書完成までの期間
会計監査において監査人により作成される「監査調書」は、完成されるまでの期限が基準により設けられている。その点、米国監査基準では、監査調書の完成ま での期限は、”Report Release Date” (多くの場合監査報告書をクライアントに届けた日付)から起算して60日以内と定められている。一方、国際監査基準では、監査報告書の日付(Audit Report Date)から起算して60日以内となっており、両方の基準間ではこのような違いが生じている。
SAS 103 Audit Documentation para. 27より
… The auditor should complete the assembly of the final audit file on a timely basis, but within 60 days following the report release date …..
ISA 230 Audit Documentation para. 26 より
… 60 days after the date of the auditor’s report is ordinarily an appropriate time limit within which to complete the assembly of the final audit file ….
上記に関し、米国監査基準(ASB)では、当然ながら米国監査基準の適用の方がより望ましいものと意見を表明している。
更新日: 2007年08月04日