会計税務情報2007年11月号
永野森田米国公認会計士事務所
FIN48に基づく移転価格ポジションの評価について
2006年度12月16日以降の開始事業年度より、FASB(米国財務会計基準審議会)から出されている、解釈指針第48号「法人所得税の不確実性に関する会計処理」(以下、FIN48)が適用となる(注)。そのため、多くの日系米国法人では、このFIN48への対応に追われている。FIN48の下、企業は、自らが提出した、もしくは提出する予定の法人所得税申告書につき、後日税務調査を受けた場合に更正を受けるリスク(=法人所得税の不確実性)がどれだけ存在するかを評価し、かつ必要であれば、そのリスクを財務諸表に負債として反映させる必要が でてくる。このように、FIN48により、法人所得税申告書上にて報告されている全ての税務ポジションにつき評価を余儀なくされるが、なかでも移転価格に 関わるポジションの評価は最重要と考えられている。今月の会計税務情報では、このFIN48に基づく、移転価格ポジションの評価方法について説明する。
FIN48の下、移転価格ポジションに関わる不確実性が如何に評価されるか、以下のシナリオを用いて説明する。
(シナリオ)米国法人のS社は、日本法人P社の100%子会社である。S社はP社の製造する電化製品を米国にて再販するDistributorである。2007年度のS社の総売上は$5百万でであり、営業利益は$0.1百万であった。
上記のシナリオにおいて、S社の営業利益率は2%となる。この場合、S社は2%の利益水準が移転価格ルールの観点からは妥当であるというポジションを取っている、と言えることになる。米国移転価格税制においては、S社の営業利益を、「P社の製品を米国にて再販するという行為に対し、S社が受け取る報酬」と見なし、2%という水準が、独立企業原則に則った場合に、妥当と言えるか否かを検証することになる。
問題となりうるのは、納税者企業とIRSとの間で「妥当な利益水準」を巡り大きな考え方の隔たりが存在するケースである。IRSとしては、S社の担ってい る機能・リスクに鑑み、同社はP社製品の再販を通じ、最大6%の営業利益率を上げるべきであると主張する可能性がある場合(つまり、IRSは6%の利益水 準が妥当であるというポジションを取る)、S社の移転価格ポジションに介在する不確実性は下記のように表現される(表中の確率に関する数字は任意のも の)。
S社の予想する 移転価格ポジション 個別確率 累積確率
IRSの利益率ポジション (Saveできる税額)
2% $80,000 10% 10%
3% $60,000 40%以上 50%以上
6% $0 50%未満 100%
上記表中“移転価格ポジション”コラムにある$80,000とは、S社の予想でIRSより認可してもらえる営業利益($5,000,000 x 2% = $100,000)と、IRSが最もアグレッシブな立場を取ってきた場合の営業利益($5,000,000 x 6% = $300,000)の間の差異に、税率(40%)を掛けた額である。換言すれば、S社のポジションは、IRSのアグレッシブなポジションと比較し、税額 を$80,000だけ減額する効果を持つことになる。ただし、このようにIRSより営業利益2%を妥当なポジションとして認められる可能性は、全体として 10%のみとする。
FIN48においては、税務当局による税務調査が行われた場合に50%超 (More Likely Than Not)の可能性で実現が期待される(正当であると当局が認める)税務ポジションのみを、 計上する旨定めている。そこで、S社では、2%の利益率がIRSにより認可される可能性は10%に過ぎないものの、3%までの利益率の認可については、全 体として50%超の確率でIRSより同意に応じられるであろうと予想したとする。その場合、未認識の税額は、営業利益$50,000 (=総売上高$5,000,000 x 利益率差(3%-2%) )×税率40%=$20,000と算定することになる。そのため、S社は以下の追加仕訳を行うことになる。
DR)税金費用 $20,000
CR) FIN48に基づく税務負債 $20,000
移転価格ポジションの評価には、内国歳入法(IRC)6662条に準拠して作成された移転価格ドキュメントが不可欠とある。とくに、FIN48の下では、50%超の可能性で予想される税務ポジションのみが認識されるため、今後の移転価格のドキュメントにおいては、各移転価格ポジションの実現可能性についての言及が追加されることが望ましいと考えられる。
(注) 未公開会社については、2007年12月15日以降開始事業年度より適用となる。
更新日: 2007年11月10日