会計税務情報 2008年7月号
永野森田米国公認会計士事務所
財務諸表におけるFIN48の影響~税効果会計との関係
2006年12月16日以降開始事業年度(非上場企業については2007年12月16日以降)より、FASB解釈指針第48号「法人所得税の不確実性に関する会計処理」(以下、FIN48)が適用となった。現在、米国に進出する多くの日系企業においてもFIN48の実務的対応に追われている。今月は、このFIN48が実際の財務諸表に与える影響について、税効果会計との関係を含め解説したい。
1. FIN48 適用以前の法人所得税の不確実性に関する会計処理
FIN48の適用以前は、実際の税務調査などの際、SFAS No. 5 (偶発債務の会計原則) に基づき、以下のように追徴課税の可能性によって会計処理がされていた。
追徴課税の可能性
Probable (発生の可能性が高い) 予想される負債を計上する
Reasonably Possible (発生の可能性がある) 注記(Footnote)する
Remote (発生の可能性がほとんどない) 負債の計上及び注記はしない
2. FIN48適用後の会計処理
FIN 48 においては、税務調査が行われた場合に、50%超(More Likely Than Not)の可能性で実現が予想される(正当であると当局に認められる)税務ポジションを認識する必要がある。従って、税務調査を受ける危険性(確率)は考 慮せず、税務調査を受けているという前提の下で、税務ポジションの分析を行い、50%超の基準を満たさないものについては、追徴されるべき税額、利息及び ペナルティを計上する必要がある。
~FIN48の適用される範囲~
FIN48は、Non – Taxable Entities、Pass-through Entities、を含むすべての企業に適用される。また適用される主な税務ポジションには以下のものがある。
o申告書を提出しないという判断(州税に関するネクサスの問題など)
o所得の配分(移転価格、州間配賦の問題など)
o所得や控除の特性(税務上の損金/益金算入時期の問題など)
o取引形態、税務上ビジネス形態の選択(非課税取引、S Corporation 選択、非課税法人資格の有効性など)
上記のように、非常に多くの税務ポジションについてFIN48 の対象となる。
3. FIN48と税効果会計について
従来のSFAS No.109 (税効果会計に関する会計原則) に基づく会計処理においては、確定申告書上の税額(“As-Filed” Tax Basis)と会計上の税額(FS Tax Basis)の差異を、永久的差異、一時的差異に分類し、繰延法人税(Deferred Tax)の計算を行ってきた。今回のFIN 48 の適用により、新たに50%超(More Likely Than Not)の可能性で実現が予想される税務ポジションに基づく税額(“Best Estimate” Tax Basis)が導入されることになる。その結果、FIN48と税効果会計の関連は以下の図のようになる。
会計上の税額 FIN48の税額 申告書上の税額
FS Tax Basis ←————–→ “Best Estimate” ←————–→ “As-Filed” Tax Basis
Tax Basis
繰延税金資産/負債 FIN48 負債
Deferred Tax Assets/Liabilities
FIN48 に基づく分析の結果、50%超の基準を満たさないと判断した場合、SFAS No.109の下で計上された繰延法人税についても、繰延税金資産(Deferred Tax Assets)の減額、繰延税金負債(Deferred Tax Liabilities)の増額、未払法人税等(Income Tax Payable)の増額、または未収還付法人税等(Income Tax Refund Receivable)の減額などの調整がされることになる。また、FIN48の下で認識される負債は、その支払が一年以内に行われるか否かによって 「Current」と「Non Current」に区分され、繰延税金資産/負債とは別に表記する必要がある。さらに、繰延税金資産の引当(Valuation Allowance)によって、FIN48 負債の代わりとすることは認められていない。以下に具体的なFIN48適用の例を掲載する。
・ 具体例1
会計上の税引前利益(Book Income): $100,000
不確実性のある税務ポジション(Uncertain Tax Position): $40,000(永久的差異による控除と仮定)FIN48 の分析によってこの税務ポジション$40,000は、50%超の確率で、当局に認められる金額は$10,000と判断された。実効税率は40%とする。
申告書上の税額 FIN48 税額
Book Income $100,000 $100,000
Uncertain Tax Position (40,000) (10,000)
Taxable Income $60,000 $90,000
Tax Rate 40% 40%
Tax Expense $24,000 $36,000
(DR)Tax Expense $36,000
(CR)Current Tax Liabilities $24,000 (申告書上の税額)
Non Current Tax Liabilities $12,000 (FIN48 負債、Non Current の場合)
・ 具体例2
今期取得した無形固定資産$150,000 について、会計上では減価償却せず資産計上(Book Basis $150,000)、申告書上では全額今期の費用として申告(“As-Filed” Tax Basis $0)している。SFAS No. 109 の下でこの一時的差異は繰延税金負債となる。FIN48の分析の結果、50%超の確率で当局に認められる控除額は、15年での償却額$10,000 ($150,000/15 年)となった。税引前利益(Book Income)は、$500,000、実効税率を40%とする。
申告書上の税額 FIN48 税額
Book Income $500,000 $500,000
Uncertain Tax Position (150,000) (10,000)
Taxable Income $350,000 $490,000
Tax Rate 40% 40%
Tax Expense $140,000 $196,000
今期の年税額及び繰延税金負債の計上
(DR)Tax Expense $200,000
(CR)Current Tax Liabilities $140,000 (申告書上の税額)
Non Current Deferred Tax Liabilities $60,000 (繰延税金負債 $150,000 x 40%)
FIN48に基づく繰延税金負債の減額
(DR)Non Current Deferred Tax Liabilities $56,000
(CR)Non Current Income Tax Payable $56,000 (FIN48負債 $140,000 x 40%)
このほかにFIN48 に基づく負債に対して、税務当局によって課せられる利息及びペナルティについても、計上する必要がある。
4. 今後のFIN48について
非上場企業に対するFIN48の適用については、現在FASB において、その有用性の問題から更なる延期が検討されているところである。しかしながら、US GAAP に基づく財務諸表を要求される日系米国法人においては、引き続きFIN48の適用が財務諸表に及ぼす影響について検討し、十分な対策を考えておくことが望 ましいといえる。
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更新日: 2008年07月08日