会計税務情報 2009年2月号
永野森田米国公認会計士事務所
2008年度米国税法改正のポイント解説~個人税務申告編
リーマンブラザーズ破綻から早くも5ヶ月が過ぎようとしている。サブプライム問題による景気後退どころか、第2次世界恐慌とも言われる不況感の中、個人、 企業、政府が生き残りを懸けて今後の対策を模索している。このような現状の中で、2007年後半から2008年度にかけて米国政府が法制化した法案は、個 人税務申告に関連するものだけで、実に7つもある。これらの中でも、とりわけ個人税務申告に大きく影響を及ぼす主な税法改正について、ポイント解説を行う こととする。
1.減税小切手(Economic Stimulus Act of 2008)IRC Secs. 6211 & 6428
米国居住者として2007年度に申告書を提出した多くの納税者が既に減税小切手(Economic Stimulus Payment)を受け取っていると考えられる。この減税小切手は2007年の税務申告書上の還付金と思われがちであるが、実際には2008年の税務申告 書上の還付金として扱われる。従って、減税小切手は2007年の申告書に基づき計算された還付額であるが、実際には2008年の申告書で再計算し、差額を 調整するという手続きが必要となる。ただし、2007年よりも2008年の税務申告書上で計算された金額が小さい場合(減税小切手を貰い過ぎている場合) については、返金の必要はない。逆に、2007年よりも2008年の税務申告書上で計算される金額が大きい場合は、差額を2008年の税額控除 (Recovery Rebate Credit)として利用できる。
(2007年税務申告書に基づく還付額) > (2008年税務申告書に基づく還付額)の場合
→ 返金の必要なし。
(2007年税務申告書に基づく還付額) <(2008年税務申告書に基づく還付額)の場合
→ 差額を2008年税務申告書上の税額控除として申請する。
2008年の税務申告書上で税額控除として申請できる例として主に以下の状況が考えられる。
・2007年の調整後総所得(AGI)が高く、減税小切手額が段階的減額(Phase-Out)されたが、2008年の調整後所得が小さくなったため、段階的減額(Phase-Out)が異なる状況となった場合
・2007年では納税者自身が他の納税者の扶養者(Dependent)に該当したが、2008年はそうでない場合
・2007年には十分な該当する所得がなく受給資格を満たさなかったが、2008年には満たしている場合
・2007年に申告義務がなく税務申告書を提出していない場合
・2007年の税務申告書を期限内に提出していない場合
・2008年中に子供が生まれたことによって、扶養者控除の対象者(Qualified Child for Child Tax Credit)が増えた場合
・2007年に非居住者扱いであったが、2008年は居住者扱いになった場合
・2007年に有効なソーシャルセキュリティナンバーを持っていなかったが、2008年中に取得した場合
なお、今回の減税小切手については、2001年(Economic Recovery Tax Act of 2001)と同じメカニズムとなる。
2.住宅ローンの債務免除益(Mortgage Forgiveness Debt Relief Act of 2007)IRC Sec. 108(a)(1)(E)
通常、債務の免除については、民事再生法(Chapter 11)や破産(Insolvent)などの場合を除き、債務免除益を認識する必要がある。しかし、今回の税法改正によって、サブプライムローン問題に代表 される金融機関による差し押さえなどの状況で、主たる住居のための住宅ローン(Qualified Principal Residence Indebtedness)について債務免除を受けた場合、その債務免除益が$2,000,000 まで(夫婦個別申告の場合は、$1,000,000 まで)非課税として扱うことができる。ただし、詳しい非課税の要件としては、IRS Publication 4681 を確認する必要がある。
なお、カリフォルニア州においても、California Mortgage Relief Conformity Act (SB 1055) によって、同様の債務免除益が$800,000まで(夫婦個別申告の場合は、$400,000 まで)非課税扱いが可能となった。ただし、連邦税法と異なる点もあるので、詳しい非課税の要件としては、カリフォルニア州のルールを個別に確認する必要が ある。
3.First Time Home Buyer Credit(American Housing Rescue & Foreclosure Prevention Act of 2008)IRC Sec. 36
2008年4月9日以降、及び2009年6月30日以前に購入した納税者の主たる住居に対して、購入金額の10%もしくは、$7,500 (夫婦個別申告の場合は、$3,750)のどちらか小さい方を税額控除として利用できる。これには、初めて住居を購入した方だけでなく、住居の購入直前の 3年間において、主たる住居の所有権を持たない方も対象となる。しかしながら、この税額控除は、IRSからの無利息ローンとして扱われ、2010年以降の 15年間の申告において、分割で返済をしていくことになる。詳細については、IRS Publication 530 を参照頂きたい。
ただし、現在審議中のAmerican Recovery and Reinvestment Act of 2009 において、2009年1月1日以降購入の主たる住居に関しては、分割返済ルールの撤廃、及び2009年8月31日まで購入期限の延長が検討されているた め、今後の動向に注意が必要である。
4.標準控除(Standard Deduction)に支払い固定資産税の追加(American Housing Rescue & Foreclosure Prevention Act of 2008)IRC Sec. 63 (b) (7)
従来では、項目別控除(Itemized Deduction)を選択している納税者のみしか控除できなかった不動産(米国外も含む)に対する支払い固定資産税について、標準控除 (Standard Deduction)を利用する納税者についても、最大$500まで(夫婦合算申告の場合は、$1,000まで)が、米国内の不動産に対する支払い固定資 産税に限り控除可能となった。これについては、2009年まで適用される。
5.AMT 控除額(AMT Exemption)の変更(Emergency Economic Stabilization Act of 2008)IRC Secs. 25 & 55
2007年の末に土壇場で可決された優遇AMT の控除額の延長措置について、2008年度も同様に延長されることが可決された。2008年度AMT 控除額(AMT Exemption)は以下のとおりである。
Married Filing Jointly $69,950
Single or Head of Household $46,200
Married Filing Separately $34,975
6.災害損失(Emergency Economic Stabilization Act of 2008)IRC Sec. 165
“Federally Declared Disaster” に該当する災害損失については、調整後総所得(AGI)の10%の制限を受けることなく項目別控除(Itemized Deduction)を選択する納税者については控除可能となった。さらに、標準控除(Standard Deduction)を利用する納税者についても、標準控除(Standard Deduction)に“Federally Declared Disaster” に該当する災害損失について、加算することが認められた。なお、“Federally Declared Disaster” に該当するかどうかについては、Federal Emergency Management Agency(FEMA)のウェブサイト(http://www.fema.gov/)にて確認が可能である。特に、昨年カリフォルニア州のいたる所で発 生した山火事によって、災害損失を被った方については、この適用可否を検討する必要がある。
2008年度税法改正では、景気を回復のための政府の苦難が滲みでているように思われる。現在においても、景気回復のための様々な減税措置が検討されてお り、今後の動向に注目すると共に、これらの税法改正から納税者が税務面での恩恵を受け、景気回復に繋がることに期待したい。
*****************
更新日: 2009年02月05日