会計税務情報2009年6月号
永野森田会計士事務所
時価会計SFAS157について
世界同時不況は、クライスラーやGMの経営破綻Chapter 11という「非常事態」にまで発展した。今回の不景気は、米国の金融システムの破綻から始まったとされている。そうした中、米国の金融業界では、金融シス テムの建て直し策の一貫として「時価会計を見直せ」という議論も出ている。つまり、米国における時価会計の適用により、多額の評価損を計上せざるを得なく なった状況が、多くの企業の経営破綻の引き金になったという苦言である。今月号は、米国において最近導入された財務会計基準所(SFAS)157号による 「公正価値」と時価会計の流れを考察する。
1. SFAS157の導入背景
米国においては、2008年12月末決算期から、金融商品の公正価値(fair value)を定義づけるSFAS 157の適用が開始された。それまでは、USGAAPにおけるfair valueという言葉は頻繁に使われてきたものの、それを明確に定義付ける基準は、存在しなかった。そこで、FASB(米財務会計基準審議会)は、金融商 品におけるfair valueの基準化をSFAS157という形で果たそうとしたのである。しかし、このSFAS 157は、公正価値を導くための概念的な定義で止まっていて、実際の評価方法の適用は、経営者側の判断に委ねられている。
2. SFAS157の定義
SFAS157によると、fair valueは、”price that would be received to sell an asset or paid to transfer a liability in orderly transaction between market participants at the measurement date”と明記されている。つまり、評価はExit Price(出口価格)が中心であり、Purchase Price(入口価格)や経営者による”good faith measurement”ではない。会社の保有する金融資産を決算日において売却したとしたら、マーケットの参加者は幾ら支払うだろうかという、市場見積 もりが、fair valueである。例えば、会社が5億ドルで未公開株式を買ったとする。その会社がこの買収した未公開株式は2億ドルの利益を生み出して売却することが可 能であると分かれば、決算時でこの投資有価証券のFair Valueは7億ドルという事になる。
SFAF 157の最大のポイントは、このfair valueを導き出すためには、3つのレベル評価方法(three-level fair value hierarchy)に基づかなければならない点である。いずれのレベル評価方法を適用したかについては、財務諸表上での開示事項となっている。
レベル1は、市場価格を直接観測できる(observable market input)金融商品のfair valueであり、従来から時価評価されている公開株式など、市場性のある有価証券等がこれに該当する。
レベル2は、市場価格を直接観測できないが、類似もしくは間接的に市場価格を観測可能な金融商品のfair valueである。金利スワップや活発な取引のない債権など、スタンダードなモデルに市場データを当てはめることで公正価値が求められるものとされている。
レベル3は、市場価格を観測できない金融商品のfair valueである。最も難しい評価方法である。過去の価格モデルや、経営者による評価や、将来キャッシュフローの現在価値など、類推的な計算方法により導 き出される。サブプライムローンを組み込んだ金融商品のような、個々に構成された中身の異なる観測不能な資産の多くは、この分類に入っていると考えられて いる。
レベル2、3の多くは日本の金融商品会計基準でいうところの「市場価格のない有価証券」と重なる部分が多い。
3. SFAS157の適用
SFAS157では、極力上段のレベル、つまりレベル1に近いところで評価方法を適用するようにと強調している。例えば、ある金融商品については、直接的 に市場から見積もり(market quote)を得ることが可能であれば、モデルによる価格推定などは利用してはならない、と解説している。
一方、レベル2、3においては、類推的観測が働く以上、どのような緻密なモデルを用いても、時価会計には限界がある。ただ、真の公正価値が誰にも分からな い以上、現時点で最も確かな評価を行おうというのがSFAS157および時価会計の根底にある考え方である。SFAS157により米国における時価会計の 流れは一歩前進したと言えるが、完全な方法に辿りついたとは考えられないとの指摘にも、一理あるといえる。
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更新日: 2009年06月04日