会計税務情報2009年7月号
永野森田会計士事務所
Employee vs Independent Contractor
日系法人企業が米国進出する又は日本人が米国で起業する場合、現地で何らかの形で人手を借りる必要となる。その際、その役務提供者を被雇用者として扱うべ きか、それとも独立契約者として扱うべきかという問題に直面する。その判断により、給与税の源泉所得に顕著な違いが生じ、場合によっては訴訟問題に発展す る事もある。例えば、通常は被雇用者を採用する事は多いが、委託営業マンやIT系のソフトウェアデザイナー等の自己裁量で仕事をする部分の大きい労働者 を、会社として、どの様に位置づければ良いか迷うケースもある。今号では、このようなEmployeeとIndependent Contractorの違いについて解説する。。
1. 法務的側面と税務的側面
米国の雇用法は連邦法と州法で構成されている。雇用関係上の問題、例えば、賃金の未払いや職場のハラスメント等に関しては、こうした雇用法に基づき訴訟が 進められる。代表的な例は日本の労働基準法に良く似た連邦法のFair labor standard act等がある。
税法の側面から言えば、IRS(米国歳入庁)のEmployeeかIndependent Contractorの判断の基準として、Common Law
RuleやStatutes(後述)があり、基準に該当する場合の、雇用主(Employer)の被雇用者(Employee)に関する源泉徴収の義務及び手続きがInternal Revenue Codeで規定されている。
州税はそれぞれの州により別の法規があるので、ここでは、連邦法での判断基準についてのみ話を進める。
2. 実務的な両者の違い(所得税の源泉徴収以外の側面)
所得税法以外の点では、下記の様な様な対比が見受けられる。
A.社会保障税
●Employee(被雇用者)
FICA(公的年金)、Medicare(高齢者医療保険)、FUTA(連邦失業保険)及びDisability Insurance(傷病保険)、Unemployment Insurance(失業保険)、等が源泉徴収される。
▲Independent Contractor(独立契約者)
受領報酬から、社会保障税は差引かれない。個人の申告書上でSelf-employment taxとして申告し、自ら税金を支払う。
B. 労災
●Employee(被雇用者)
労災 職場での事故があった場合、労働者災害補償(Worker’s Compensation)が受けられる。
▲Independent Contractor(独立契約者)
労働者災害補償などがない。
C.福利厚生
●Employee(被雇用者)
福利厚生 年金プラン、医療保険、等の加入が一般的。
▲Independent Contractor(独立契約者)
福利厚生に加入しない。
D.立替費用
●Employee(被雇用者)
立替経費 職務を遂行するに当たっての経費は、一般的に雇用主より払い戻しする。従業員(被雇用者)の自己負担経費については、場合により本人(被雇用者)の個人確定申告書上Schedule-Aで控除出来る。
▲Independent Contractor(独立契約者)
職務を遂行するに当たっての経費は、独立契約者は自己負担するとともに、本人(独立契約者)の個人確定申告書上Schedule-C上で控除する。
E.雇用者責任
●Employee(被雇用者)
雇用主は被雇用者の連帯責任を負う。
▲Independent Contractor(独立契約者)
雇用者責任は無い。
3. 判断基準について
一般的にEmployeeはCommon Law又はStatutoryのどちらか法規の元に定義される。
(A) Employee status under common law: Common Law Ruleで規定される被雇用者
IRSが判断の基準とするCommon Law Rule- 3つ全てに該当すればEmployeeと判断される。
① Behavioral Control(行動規制):被雇用者としての労働の方法、時間、場所の規定や、雇用者からの業務上の指示や業務上のトレーニングがあるか。
② Financial Control(財務規制): 主たる財務的な拠出、経費や利益のコントロールは、雇用主側にあるか。
③ Type of the Relationship(両者関係):被雇用者としての福利厚生等があるか、あるいは契約書があるか。
<事例>
コンピューターソフトのプログラマー:プロジェクト契約で業務指示無し→独立契約者
ツアーガイド:ツアー毎の契約だがツアー内容に関して旅行会社の指示に従う→被雇用者
レストランのウェイター:アルバイトで週3日間合計9時間のみの勤務→被雇用者
(B) Statutory employees : 特定法規で規定される被雇用者
上記Common Law rulesには該当せず、所得税(Income tax)の源泉徴収には該当しないが、FICA(社会保障法)、FUTA(失業保険法)等の特定法規(Act)の元に源泉徴収の対象になる。要件として は、下記①-③のどれかに該当し、かつ(1)-(3)の全てに該当する。
① 1社のためにのみ、フルタイムで働く保険外交員や営業員。
② 依頼主の為に、食べ物、飲み物(ミルク以外)、洗濯物を配達するドライバー。
③ 依頼主から資材が提供され作業内容も指示されている在宅勤務者。
(1) 業務契約書は、明示的又は暗示的に全ての業務を、その契約者によってなされる
(2) 契約者は、資材投資していない
(3) 発注業務は、同じ依頼主が継続的に営んでいる業務
4. 判別の難しさと実際の問題点
上記のポイントに照らし合わせても、尚、EmployeeもしくはIndependent Contractorか判断の難しいケースが多々ある。IRSのFormSS-8に必要事項を記入して提出し、IRSの判断を仰ぐ事も出来る。下記の様な 問題も起きていることも留意されて欲しい。
<事例>
事業主は、上記どちらかの判断の曖昧なまま、特に契約書も交わさずに業務委託料としてGross金額をサービス提供者に支払った。業務委託は、2008年 内で終わった。事業主は2009年年初に支払調書Form1099-MISCを発行した。ところが、サービス提供者側は、「自分はEmployeeに該当 する」と主張、「支払額は手取額であり、事業主は社会保障税、所得税、失業保険税、労災等を別途負担した上でFormW-2を発行すべき」と労働監督当局 に訴えを起こした。労働監督当局の裁定は、労働者の利益を保護する傾向にあり、事業主が支払い命令を受ける事例が多い。
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更新日: 2009年07月03日