会計税務情報 2009年11月号
永野森田会計士事務所
FIN 48 「法人税の不確実性に関する会計処理」の非公開会社への適用(2)
いわゆるFIN48(FASB Interpretation No. 48、現行ASB 740)は、来る2009年12月末決算から、初めて非公開会社にも適用される見通しとなった。FIN48は、すべてのタックス・ポジションを対象とす る。つまり、会社側は、将来的に税務調査を受けることを前提として、調査対象となりうるあらゆる税務上のポジションを洗い出し、それらの不確実性 (uncertainty)を検証しなければならない。税務調査の入りうる全てのタックス・ポジションの検証過程であるがゆえに、対象範囲は広いものの、 日系企業の場合、実際には移転価格に焦点が絞られるように思われる。今月は、移転価格スタディーとFIN48との関わりについて考察することとする。
1. 移転価格
移転価格(Transfer Pricing)とは、国際間にまたがる関連会社間の取引価格のことである。関連会社間の海外取引価格は、恣意的に操作される可能性があり、その結果、二 国間に配分される利益が妥当性を欠く怖れが出てくる。そのため各国の税当局は、妥当な取引価格、つまり自国に対し適正な課税所得を申告しているか否かを、 税務調査を通じて確認している。つまり、第三者取引原理(Arm’s length Principle)を用いて、関連会社間取引価格が独立企業間価格で行われたものとして課税所得金額を再計算する。関連会社間取引が適正価格から乖離し ていると判断された場合には、追徴課税およびペナルティー(”IRC 6662 Penalty”)が課される。
2. 通常の移転価格比準法
関連会社間の適正な取引価格を調べるための代表的な手法としては、以下の3つの比準法(基本三法)があげられる。
A. CUP法 (Comparable Uncontrolled Price method)
対象となっている関連会社間の商品販売価格を、同等の条件・環境下における独立企業間で行なわれている販売価格と比較する方法である。
B. RP法 (Resale Price method)
国外関連取引に係る商品の買手が、その商品(類似商品を含む)を第三者に販売した価格から通常の利潤を引いた金額を以って、独立企業間価格とする手法である。
C. CP法 (Cost Plus Method)
国外関連取引に係る商品の売手が、その商品(類似商品を含む)の購入、製造等による取得の原価の額に、通常の利潤の額を加算して計算した金額を独立企業間価格とする方法である。
然しながら、上記基本三法による移転価格スタデイーによる書類化の難易度は極めて高く、現実的には、次に述べるCPM法が一般的である。
D. CPM法(Comparative Profit Method)
比較対象会社の取引価格ないし、利潤に着目するのではなく、利益率(一般的には営業利益率)を比較する方法である。
誤解してはならないのは、何れの手法を用いるにせよ、移転価格スタディーがあったからと言っても、必ずしも追徴課税が回避できる保証はないことである。即 ち、IRC 6662 Penalty(40%)からは免除されるが、IRSは必ずしも納税者側の移転価格スタディーに同意するものではなく、課税所得の更正および追徴課税が課 される可能性は依然として残されている。
3. FIN48と移転価格の関わり
FIN48が求めるのは、税務調査が入ることの可能な年度(Open Tax Years)について、1)タックス・ベネフィット(税務上の損金算入、収益認識)をMore likely than not (MLTN) 基準で判定し (Recognition)、2) タックス・ベネフィットが享受できると判断した場合、累積可能性計算(Commutative probability)が50%を超えた時点におけるベネフィット金額までを認識する。残余ベネフィットについては、IRSから否認される可能性(不確 実性)が高いと看做され、追徴課税並びにペナルティーをFIN48 Liabilityとして計上 (Measurement)せよというものである。
前述の通り、移転価格は、数あるタックス・ポジションの一つであるから1)Recognitionおよび2) Measurementを経て金額が確定される。
具体的な手続きとしては、基本三法やCPM法のような比準法を用いて、IRS調査による更正結果を予想することになる。更正予想に当たっては、MLTN 判定が用いられる為、移転価格スタデイーで得られた結果がそのまま採用されることにはならない。例えば、CPM法を用いた場合には、IRC482 対応に於いては、最終結論が、適性範囲の特定であるのに対し、FIN48では、中央値(メデイアン)の計算を行うことになろう。従って、FIN48目的で 採用される適正利益率は、IRC482目的で採用される数値より高めに収斂する可能性がある。
処で、このFIN48における移転価格対応の手続きは、USGAAP条件を満たすためのものである。いわゆるIRC482対応移転価格スタディーとは、内容の重複部分はあるものの、目的が異なる点に留意しておく必要がある。
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更新日: 2009年11月04日