会計税務情報2010年6月号
永野森田会計士事務所
会計の黒舟来襲!~IFRSを巡る日米の動向を切る(3)
これまで見てきたように、IFRSへの移行が世界的な潮流であることに異論を挟む余地はなく、もう既に、その初年度適用に際しての問題点を検討する時期に なった。では、米国進出企業は、具体的にどういう準備をしたら良いのだろうか。本稿に於いては、今月から2回に分けて、U.S.GAAPとの比較で乖離が 大きいと思われる箇所を取り上げ、会計技術論に止まらず、その根底にある思想を見極め、財務面への影響も考察することで、変遷への道標としたい。
1. Inventory (在庫)
いずれの会計基準に於いても、基礎は勿論原価である。又、両者共に、低価法を採用している点についても同じである。低価法に於いては、必然的に在庫を評価 するプロセスが伴うが、この時点で、両者の考えは真っ向から対立する。U.S.GAAPでは再調達価格をもって時価とするのに対し、IFRSに於いては、 売却価格を以って時価とする。即ち、U.S.GAAPに於いては、在庫評価の時点でも原価主義会計の域に止まっているのに対し、IFRSはその束縛から解 放されているかの感がある。在庫の評価損を出した後、前者が価格の復活を認めないのに対し、後者は、その制限を設けないとする所にも、上記思想が反映され ているように思われる。更に、U.S.GAAPがLIFO認めるのに対し、 IFRSがこれを認めないのも同じ理由である。よって、IFRS基準での在庫評価は、より弾力的であり、経営判断が重要な役割を果たす反面、客観性を見失 う危険性を秘めている点には留意しなければならない。
計算式を示すと、次の通りとなる。(IFRS:IAS 2, USGAAP ASC 330-10-35-1)
IFRS : 原価又はNRVの何れか低い方
Net Realizable Value (NRV)=(1)-(2)
(1)推定売値 (2)推定売却経費
USGAAP:原価又は再調達原価 (Replacement Cost=RC)の何れか低い方(RCは、NRV と
NRV― 標準粗利益の範囲に限定)
2. Leases (リース)
IFRSとUSGAAPどちらにおいてもファイナンスリース(キャピタルリース)とオペレーティングリースに分類される点では同じである。しかしその分類基準には大きな差異が認められる。
Finance lease; IAS17によれば、所有権に付与されるリスクと利益を実質的に全て吸収したリースと定義されている。Operating leaseとの対比に於いては、その判定が下記75%基準に替えて「The major part of economic life of assets」を、90%基準に替えて「Substantially all」といったよう数値基準を排除することで、経営者に、より自由な選択を許す立場をとっている。
Capital lease; 以下のうちどれか1つでもあてはまるリース
(1) リース期間終了後の所有権移転
(2) バーゲンパーチェスオプション
(3) リース期間が経済耐用年数の75%を超えていること
(4) リース料合計額の現在価値が資産の市場価値の90%を超えていること
経営者はファイナンスリースとオペレーテイングの何れかを選択するに当たり、次のような、財務面への影響を考慮することになろう。
事例―USGAAP上、オペレーテイングリースだったが、IFRS上は、ファイナンスリースとなり、$300,000の資産をBS計上したとする。年間の リース料と償却額が同額で、それぞれ$60,000だった場合のEBITD(Earnings Before Interest, Tax and Depreciation)と自己資本比率は次の通りとなる。EBITDも自己資本比率も財務分析上、重要な要素である。
★US GAAP★ ★IFRS★
Profit & Loss Profit & Loss
Net Income $100,000 $100,000
Add back Depreciation - 60,000
EBITDA $100,000 $160,000
Debt & Equity Debt & Equity
Debt $200,000 $200,000
Lease obligation - 240,000
Equity 200,000 200,000
Debt & Equity $400,000 $640,000
Equity Ratio 50% 31%
注記:上記計算では、金利要因は勘案していない。
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更新日: 2010年06月04日