会計税務情報2010年7月号
永野森田会計士事務所
日米社会保障協定適用の延長
このたび、日米社会保障協定の下での適用期間が延長された。日米社会保障協定は、そもそも日米両国で支払われる年金の「二重払いを防止」する観点から、日 本と米国政府との間に2005年10月に締結されている。これにより、両国においては当初「5年間」の二重払い防止策が設けられた。一方、5年経過後の延 長方針については、不透明なまま推移してきたが、今年は同協定が結ばれてから5年目の節目にあたり、両国政府により、適用の延長についての方針が出され た。以下は、その概要である。
1. 日米社会保障協定の内容
日本と米国との間で社会保障協定が結ばれる以前、日本からアメリカへの短期出張者がいた場合、日本では会社を通して厚生年金を払い続けられる一方、米国で は連邦年金制度(FICA)に加盟しなければならず、米国の年金拠出については基本的に掛け捨て扱いとなっていた。こうした問題を解決するため、2005 年10月、両国政府間の合意により、それぞれの国で支払い続けた年金は考慮され、合計期間がある受取基準に達成すれば、それぞれの年金制度に応じた受給資 格を得られることになったのである。具体的な選択肢としては、両国で同時に年金支払いを続け両国での合計期間に加算することも出来るし、あるいは、一方国 のみの年金に加盟し、他国については免除してもらう事が可能となった。
実に、簡単で当たり前のような内容である。しかし、これにより、日本からアメリカへの短期出張者のFICA, Medicare免除が可能となり、総給与 額(会社・従業員負担分を合わせて)15.3%をも節約できることが可能となったのである。例えて言うと、年間総額$100,000を受給する米国の短期 駐在者がいて、全額課税されるとすると(過年度に於いてはFICAの課税限度額が$100,000に達しない年もある)、3年間で計$45,900も経費 節約できる計算になる。
ただし、同協定のもとでは、適用対象は5年を超えない見込みで派遣されている短期出張者、いわゆる「一時派遣」に原則的に限られていた。したがって、 2005年より適用開始して5年間経過したものの、事情によりその後(5年目以降)も駐在する場合の適用についての明確な説明はなかった。そこで今回は、 「5年後の適用方針」についての公表が行われる運びとなったのである。
2. 今回の延長
日本からアメリカへの短期出張者が、予見できない事情により、5年目を越えて引き続き米国に滞在することが分かった場合、滞在延期の理由を記載した申請書 の提出により、二重支払い防止と連邦年金支払い免除の恩恵を、受け続けられることになった。具体的には、日本の本社を管轄する年金事務所(旧:社会保険事 務所)に申請することになる。
但し、公式の説明によれば、申請書を受理してからは、日米両国がその妥当性について、審査することになっている。さらに、この審査に於いては、米国との協議並びに相応の時間(1ヶ月以上)の必要性が謳われている。
3. 延長の基準
1) 3年まで延長
3年までの延長については、必然的な延長理由が確認できれば、日米ともに柔軟に対応する、ということとしている。以下、その例である。
・米国での就労延長の理由が、予見不可能であり、かつ、単に米国の適用免除を延長する目的でないことが明らかな場合
・あるプロジェクトに関わっていたところ、完成が予期せず遅延した場合
・就学年齢の子供がおり、就学年の終了まで米国にとどまりたい場合
2) 3年から4年まで延長
3年から4年までの延長については、予見不可能なことに加え、就労期間の延長が企業または保険者もしくは家族の重大な困難を避けるために必要な場合、と説明されている。以下、少々オーバーではあるが、挙げられている例を紹介する。
・予定していた後任が、退職又は障害又は死亡により、新たな後任が指名、準備までに時間を要する場合
・企業が他の企業に買収もしくは再編され、その手続きのために、派遣されている人が不可欠である。
なお、3年~4年延長をした後、再び同協定による適用を延長できるかどうかについては、未だ一切触れられていない状況である。
****************************
更新日: 2010年07月07日