会計税務情報 2010年9月号
永野森田会計士事務所
会計の黒舟来襲!~IFRSを巡る日米の動向を切る(4)
資産取得後の再評価について
米国会計基準(USGAAP)と国際会計基準(IFRS)との大きな相違点として、再評価(Revaluation)という概念があげられる。 USGAAP では、保守主義の観点から、資産の再評価後の価値の上昇は許されていない。一方、IFRSでは、Principle Based(原則主義)の下にこれを許容する。今月は、このUSGAAPとIFRSで大きく異なる、資産取得後の再評価について、具体例を用いながら説明 する。
1. 二つのモデル
国際会計基準では資産取得後の評価基準はCost modelとRevaluation modelの2通りが存在する。
A. Cost model
固定資産計上後、取得原価から減価償却累計額及び減損累計額を引いた額を、貸借対照表に表示する。USGAAPでは、この手法を用いる。
B. Revaluation model
資産取得後は公正価値を測定し、その結果生じる評価「益」については、過去に同じ資産から生じた評価「損」の範囲まで、損益計算書の損失のマイナスとして 計上する。その範囲以上の評価益については、その他 包括利益(B/S other comprehensive income)になり、貸借対照表には資本の再評価余剰金(B/S revaluation surplus)として計上する。
一方、評価「損」が生じた場合は、過去に同じ資産から生じたその他包括利益(B/S other comprehensive income)として計上した範囲までは、同額を減額 した上、その金額以上の評価損については、損益計算書の損失(Loss)とする(下記例2)。
なお、資産処分時には、過去に計上されたその他包括利益(B/S other comprehensive income)は、利益余剰金(B/S Retained Earnings)に振替る。
2. 再評価のプロセス
ある資産を再評価した場合、その資産が属するクラス(machinery, furniture and fixtures, office equipment等)全体を再評価しなくてはならない。また、再評価は公正価値に重大な変化がない場合は毎年行う必要はなく、3年から5年毎に行えば良 い。
<例1>:A社は2010年1月1日に$120,000の機械 (耐用年数10年)を購入した。償却方法は定額法である。2010年12月31日時点での再評価額は$180,000とする。2010年12月31日時点での仕訳は以下のようになる。
Machine (180,000 – 120,000) 60,000
Accumulated depreciation (120,000/10) 12,000
Other comprehensive income 72,000
2011年からの年間償却額は再評価額を残存耐用年数で割り、$20,000 (180,000/9)になる。
<例2>:A社は2011年度末に公正価値に重大な変化があることを察知し、この機械を再評価したところ、再評価額は$80,000になった。2011年12月31日時点での仕訳は以下のようになる。
Accumulated depreciation (180,000/9) 20,000
Other comprehensive income 72,000
Loss 8,000
Machine (180,000 – 80,000) 100,000
2012年からの年間償却額は再評価額を残存耐用年数で割り、$10,000 (80,000/8)になる。
Revaluation modelを採用すると、定期的に、すべての資産を同一の日に再評価した金額について評価損益として認識することになるため、実務的には極めて煩雑とな る。また近年の不動産市場の低迷により、再評価によって、資産価値が目減りすることも考えられる。
このような観点からRevaluation modelを採用する日本企業は限定的と考えられているが、時価会計が国際会計基準の重要な基本概念であることに変わりはない。
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更新日: 2010年09月04日