会計税務情報 2010年10月号
永野森田会計士事務所
会計の黒舟来襲!~IFRSを巡る日米の動向を切る(5)
IFRS連結上の注意点について
IFRS(国際財務報告基準)への移行時期は、直ぐそこまで迫っている。2009年6月には日本の金融庁が「我が国における国際会計基準の取り扱いについ て(中間報告)」を公表している。いわゆる「日本版ロードマップ」である。内容は、米国のIFRS適用(アドプション)へのロードマップと良く似ている。 つまり国際的な財務・事業活動を行っている上場企業の連結財務諸表に対しては、2010年3月期からの任意適用を認めつつ、強制適用の判断時期を2012 年を目途しており、この強制適用を判断した場合には、日本の上場企業は2015年または2016年よりIFRSの適用開始となる。今回は、IAS(国際会 計基準) 第27号「連結及び個別財務諸表」の観点から、米国進出の日系子会社への影響について考察してみた。
1. 連結の範囲
Principles-based(原則主義)を第一に掲げるIFRSにおいては、連結の範囲を「支配の概念」に拠るものとする。この「支配の概念」と は、すなわち実質支配を有するすべての会社を連結することと意味する。日本基準に存在するような例外は、認めないような格好だ。例えば日本では、原則的に 実質支配はすべて連結対象だが、一時的な支配のみの子会社やSPE(特別目的事業体)などはある一定の基準を満たせば、連結から外されるケースもある。こ の点、IFRSでは、実質的な支配が存在すると結論付けられば、SPEも含め連結対象となる。よって、以前まで連結対象になっていなかった米国内の子会社 でも、IFRSより連結の対象となる可能性がある。
2. 連結内企業の会計方針
IAS 第27号では、IFRSでの連結財務諸表は“Like transactions and other in similar circumstance”においては“Uniform accounting policy”を用いて作成しなくてはならないと明記されてある。すなわち、「同様の状況での類似した取引及び他の事象」については、連結内企業が採用す る会計方針と異なる会計方針の場合は、適切な修正を行わなけれらなくなる。
現在、多くの在米子会社に課される連結用の報告資料(いわゆる連結パッケージ)においては、USGAAPに準拠されていれば、いわゆる「6項目*」の調整 を除けば、それらを連結利用できることとしている。ところが、上記のように、IFRS適用の場合は、すべての会計方針についてのIFRSに準拠するような 調整が必要になってくる。
3. 連結内企業の決算日
IAS第27号Consolidation Procedure中のパラグラフ22においては、連結内企業の決算日についても、その財務諸表の決算日は同一のもので作成されなければならない、と指摘 している。もし、決算日が異なる場合は、実務上Impracticalな場合でない限り、子会社は親会社の決算日にあわせ財務諸表を追加的に作成しなけれ ばならない。
パラグラフ22では“When the end of the reporting period of the parent is different from that of subsidiary, the subsidiary prepares, for consolidation purpose, additional financial statements as of the same date as the financial statements of the parent unless it is impractical to do so”とうたっている。よって、”決算日を同じにする"という明記はなく、親会社の期末日にあわせた”Additional Financial Statements(追加の財務諸表)”を作成しなければならない、と説明している。
ここでの”Impractical”な場合とは、“あらゆる合理的な努力をした場合でも”不可能な場合ということである。人員不足や決算作業の日程が間に合わないなどの理由は、含まれてない様である。
もし、同一決算日での連結が実務上不可能である場合、現在の日本基準では、親会社と子会社の決算日の差異が3ヶ月を超えない場合には子会社の財務諸表をそのまま連結できることとなっている。その際、決算日の差異期間内に生じた重要な“連結内取引”には調整を行える。
実際としては、米国内にある日系子会社は12月末決算日であるのに対し、日本親会社はその翌年3月など、親会社と3ヶ月の差異期間が存在するケースが多 い。上記のパラグラフ22によれば、”Additional Financial Statements” つまり、「追加の財務諸表」を必要とする。必ずしも、在外子会社の決算日の変更を強制するものではないが、事実上、決算日を親会社に合わせていくことを促 すものと考えられる。
以上のように、米国進出の日系子会社としては、日本親会社とのIFRS連結上の悩ましい課題が出てくることが予想される。早めに対応策を構築することが望ましいと思われる。
*USGAAPから日本GAAPへの連結調整する際の「6項目」とは、1) Amortization of Goodwill, 2) Actuarial gains and losses of defined benefit plans recognized directly to equity, 3) Capitalization of intangible assets during the development phase, 4) Fair value measurement of investment and other properties, 5) Retrospective adjustments, 6) Accounting attributable to the minority interest、である。
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更新日: 2010年10月04日