会計税務情報 2010年11月号
永野森田公認会計士事務所
税法改正Small Business Job Act of 2010のポイント
2010年、米国では不況対策としての小規模企業に対する様々な税政策が打ち出されてきた。極めて魅力ある減税策が豊富に組み込まれている。今回は、この 2010年9月にオバマ大統領により承認された”Small Business Job Act of 2010”の中から注目に値するものを幾つか拾ってみた。
A. 全ての法人に適用される減税策
1. Sec 179 Expense Election(新規購入固定資産の特別控除)
Sec 179 Expense Electionとは、IRC 179条に基づき、新規に固定資産の購入年につき一気にその大部分を控除できるという、アメリカでは一般的に知られたルールである。今回の改正により、2010年と2011年のSec 179 控除限度額は$250,000から倍の$500,000まで引き上げられた。2009年度においては$800,000以上(investment limit)の固定資産を購入した際はその超過分だけ dollar for dollarで控除限度額は減額されてきた。今回により、2010年と2011年につき investment limit は$800,000から$2,000,000までに引き上げられた。さらに、従来はSec 179のQualifying Property(適格固定資産)に含まれていなかった不動産改良費の一部が、Sec 179の控除限度額$250,000まで対象に含まれることになった。具体的な一部対象となった改良費は以下の3点である。
1) リース契約中の非居住建築物の内装費
2) レストラン(改良費のみならず、新築費用も含む)
3) 小売用建築物の内装費
2. Bonus Depreciation(新規購入固定資産の特別償却)
Bonus Depreciationとは、新規購入資産のDepreciable Basis(減価償却可能額、Sec 179 特別控除後の残高)につき、50%のBonus Depreciationを行なえるという時限立法である。Bonus Depreciationは2009年は認められていたが、今回、この時限立法は2010年度まで延長されたのである。さらに、新規購入の乗用車、軽トラックのBonus Depreciationの上限は$8,000から$11,060(軽トラックは$11,160)までに上げられた。
3. 携帯電話の使用費規定の緩和
従来、携帯電話や類似機器を業務の為に使用した場合、詳細な使用記録を残して業務使用の証明をしなければいけなかった(280F Requirements)。2010年からはこの規定は廃止された。また、従業員が個人の携帯電話を業務使用した場合、項目別控除として個人の確定申告 書で引くことが出来るようになった。
B. Small Business を対象とした減税策
以下の減税策は、過去三年間の平均総所得が$50,000,000以下の、小規模企業(Eligible Small Business)、に対しての特別処置である。
1. 創業経費の増額
2010年度のみにつき、創業に掛かる経費(Start Up Costs)の一時償却控除限度額は、$5,000から$10,000に引き上げられた。ただし、Start Up Costsが$60,000を超える場合、この限度額はdollar for dollarで減額されていく。またこの限度額を超えた創業費用については、従来どおり180ヶ月間(15年)かけて償却される。
2. CreditによるAMT課税額の相殺
従来、General Business Credit(Investment Credits, Work Opportunity Credits, R&D Credits 等)は、最低代替税(Alternative Minimum Tax)の計算上としては取扱うことは出来なかった。今回の税制改正により、2010年度の小規模企業については、CreditをAMT計算上の課税額から相殺する事が可能となった。つまりCreditを、Regular taxおよびAMT計算上の両方で課税額から相殺できることとなる。
3. Credit Carry backの延長
上記のGeneral Business Creditの適用について、Creditの繰戻し(Carry back)期間は1年から5年へ延長された。
4. 個人事業者に対してのSelf Employment Tax特別処置
従来、個人事業者はSelf Employment tax(個人事業者の保険税)を計算する際に経費として引くことが出来なかった個人の医療保険料について、2010年度からはSelf Employment tax (Schedule SE) を計算する際、経費として引くことが出来るようになった。
C. その他
賃貸物件の所有者の申告義務
減税策ではないが、IRSより公平な収税目的の為に加えられた注目すべき税政策である。2011年1月1日より、賃貸物件の所有者にについても Form1099の申告義務が課せられることになった。Form1099とは、業務を外部へ委託し、一人または一企業に対して年間$600以上の支払をし た際、連邦へその支払額を申告するフォームである。委託した者へはForm1099の控えも提供しなければならない。2011年からはこの申告義務を怠っ た事業に対して、従来の2倍のペナルティーが課せられる事になった。
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更新日: 2010年11月04日