Nagano Morita, a Division of Prager Metis CPAs
NAGANO MORITAは、プレーガー メティス米国会計事務所の日系部門です。
会計税務情報 2026年7月23日号
Nagano Morita, a division of Prager Metis
2026年2月、カリフォルニア州議会に Assembly Bill(AB)1790 が提出された。本法案は、約40年間維持されてきた Water’s-Edge Election を廃止し、原則として Worldwide Combined Reporting(全世界ベースの結合報告制度) を適用することを目的としている。Water’s-Edge Election は、多くの日系企業を含む多国籍企業が採用している制度であり、その廃止は国際税務実務に大きな影響を及ぼす可能性がある。本法案は最終的に成立していないものの、カリフォルニア州が約40年間維持してきた Water’s-Edge 制度を抜本的に見直そうとした初めての法案であり、今後の州税政策を占う上でも注目される。本稿では、AB1790の概要と現在の審議状況、さらに日系企業への影響について解説する。
Water’s-Edge Election を理解するためには、まず「ユニタリー・ビジネス(Unitary Business)」という概念を理解する必要がある。
ユニタリー・ビジネスとは、親会社や子会社がそれぞれ独立した法人であっても、実態として一つの事業グループとして運営されている状態をいう。例えば、日本本社が米国子会社や欧州・アジアの子会社を統括し、人材、資金、技術、製品などをグループ内で共有しながら事業を展開している場合、税務上はグループ全体を一つの事業として捉えることがある。
このような考え方に基づき、ユニタリー・ビジネスを一体として課税所得を計算する方式が Unitary Taxation(ユニタリー課税) である。
カリフォルニア州では、ユニタリー・ビジネスに該当する企業グループについて、Worldwide Combined Reporting(全世界ベースの結合報告制度) によりグループ全体の所得を計算し、その後、Apportionment Formula に基づいて California に帰属する所得を算定する方式を原則として採用している。
しかし、海外子会社まで含めて所得計算を行うことは企業にとって大きな事務負担となる。そのため、一定の要件を満たす企業は Water’s-Edge Election を選択することにより、海外関連会社の所得や損金算入項目の大部分を結合対象から除外することが認められている。
文字どおり「水際(Water’s-Edge)」で海外関連会社を区切るこの制度は1986年に導入された。当時、カリフォルニア州が採用していた Worldwide Combined Reporting に対し、日本、英国、カナダなどの各国政府は、自国企業グループの全世界所得を California の課税計算に取り込む制度であるとして強く反発した。このような国際的な批判を受け、多国籍企業への配慮として Water’s-Edge Election が創設された経緯がある。
現在では、Water’s-Edge Election は、多くの日系企業を含む多国籍企業にとって、カリフォルニア州税務上の重要な制度として広く利用されている。
近年、カリフォルニア州では財政赤字への対応や、多国籍企業に対する課税の適正化が重要な政策課題となっている。こうした中、一部の州議員からは、「Water’s-Edge Election が多国籍企業による課税所得の国外流出を容易にしている」との指摘がなされ、約40年間続いてきた同制度の見直しが提案されることとなった。
今回提出された AB1790 では、Water’s-Edge Election を段階的に廃止することが提案されている。
■ 2026年・2027年課税年度
Water’s-Edge Election を維持する企業について、主に次の改正が提案されている。
> Net CFC Tested Income(NCTI)の40%を California Business Income に算入
> Water’s-Edge グループに含まれる外国法人の判定基準を見直し、米国市場向け売上を有する外国法人を結合対象に含めやすくする
> Franchise Tax Board(FTB)の承認を得ることなく Water’s-Edge Election を終了できるよう制度を改正
■ 2028年以降
2028年以降に開始する課税年度については、次の内容が提案されている。
> すべての Water’s-Edge Election を終了
> 新たな Election を認めない
> Worldwide Combined Reporting(全世界ベースの結合報告制度)を原則として適用する
仮に成立すれば、1986年以来続いてきた Water’s-Edge 制度は実質的に廃止されることになる。
AB1790 は2026年4月に Assembly Revenue and Taxation Committee を可決し、その後 Assembly Appropriations Committee に送付された。しかし、その後の審議は延期されており、現在も委員会段階にとどまっている。
また、本法案は増税法案に該当するため、州憲法上、州議会両院において3分の2以上の賛成が必要となる。こうした高い可決要件に加え、2026年通常会期の立法スケジュールを踏まえると、本法案が現会期中に成立する可能性は高くないとみられている。
仮に AB1790 と同様の制度改正が実現した場合、日系企業には大きな実務上の影響が生じる可能性がある。特に、以下のような対応が求められることが想定される。
> 日本親会社を含む海外グループ会社を対象とした Worldwide Combined Reporting への対応
> 海外グループ会社の財務諸表を California 税法ベースへ調整
> 為替換算の実施
> Intercompany取引の消去
> Worldwide Sales Factor の集計
> 海外グループ会社からの税務データ収集体制の構築
もっとも、Worldwide Combined Reporting の適用が必ずしも税負担の増加を意味するわけではない。海外所得が課税対象に加わる一方で、Worldwide Sales Factor の分母が大きくなることにより California Apportionment Percentage が低下するケースや、海外子会社の欠損金が反映されるケースも考えられる。そのため、税負担への影響は企業グループの構成や海外事業の状況によって大きく異なる。
一方で、日本本社やアジア、欧州、南米など海外グループ会社から財務データを収集し、米ドルへの換算、連結調整、さらに会計ベースから税務ベースへの調整を行う必要がある。その結果、コンプライアンス対応に要する作業量およびコストは大幅に増加することが予想される。
AB1790 は現時点では成立しておらず、通常会期中の成立可能性も高くない。しかし、本法案は、カリフォルニア州政府が Water’s-Edge 制度そのものを見直す姿勢を明確に示したという点で、企業にとって重要なシグナルといえる。
近年の州政府の政策動向を踏まえると、今後も Water’s-Edge 制度の縮小や Worldwide Combined Reporting の適用拡大を目指す法案が再提出される可能性は十分考えられる。
Water’s-Edge Election は、約40年にわたりカリフォルニア州の国際税務制度の中核を担ってきた制度である。AB1790 は現時点では成立していないものの、その内容を見ると、州政府が国際課税制度の抜本的な見直しを検討していることを示している。現時点で Water’s-Edge Election を採用している企業は、直ちに申告方法を見直す必要はない。ただし、州政府が制度そのものの見直しに着手したという事実は重要である。今後の立法動向を継続的に注視するとともに、Worldwide Combined Reporting が適用された場合を想定し、海外グループ会社の情報収集体制や税務データ管理体制について、あらかじめ点検・整備を進めておくことが望まれる。
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