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NAGANO MORITAは、プレーガー メティス米国会計事務所の日系部門です。

サッカーW杯から見る米国税制の特徴

2026年FIFAワールドカップは、米国、カナダ、メキシコの3か国共同開催となり、史上最大規模のスポーツイベントとして世界的な注目を集めている。米国内ではロサンゼルス、ニューヨーク、ダラスなどの主要都市が開催地となり、世界中から選手、スポンサー企業、メディア関係者、そして多くの観光客を集めている。スポーツイベントというと競技や経済効果に注目が集まりがちであるが、その裏側ではさまざまな税務問題が発生する。実はワールドカップは、米国税制の特徴を理解するうえで格好の題材である。今回は、これまでのニュースレターで触れてきたトピックスにも関連づけながら、世界最大のスポーツイベントである、現在開催中のワールドカップを通じて米国税制について概説する。

A. 外国人選手にも課税される「Jock Tax」

ワールドカップに出場する外国人選手は、自国で給与を受け取っている場合であっても、米国内で行われた試合や練習に対応する報酬については、米国課税の対象となる。このようなプロスポーツ選手に対する課税は一般的に「Jock Tax(ジョック・タックス)」と呼ばれている。

Jock Taxは、米国居住のメジャーリーガーだけでなく、外国居住の外国サッカー選手にも適用される。例えば、日本代表選手がテキサス州、カリフォルニア州、ニューヨーク州など複数の州で試合を行った場合、活動日数に応じて各州が報酬に対する課税権を主張することができる。一般的にはDuty Days Method(勤務日数按分法)により年間報酬を活動日数ベースで各州へ按分される。

今回の日本代表チーム(Samurai Blue)は、ベースキャンプとして米国ナッシュビル(テネシー州)を拠点として、第1戦でダラス(テキサス州)、第2戦でモンテレイ(メキシコ)、第3戦で再びダラス(テキサス州)と移動する。そしてF組2位で突破して決勝トーナメントに進出した場合、ヒューストン(テキサス州)に移動してC組1位と対戦する。そうした場合、Jock Taxが発生し、代表選手のみならず、トレーナーや日本サッカー協会(JFA)関係者すべてが、活動日数に応じて、所得がそれぞれの州に按分される。もちろん、決勝トーナメントをさらに進んだ場合も、同じように適用される。

ちなみにベースキャンプ所在であるテネシー州は、個人所得税のない数少ないTax Friendlyな州として知られている。その点、しっかりと税務対策を取った上でキャンプ選定を行ったのではないか、と想像できる。このように、近年ではトップアスリートの移動が複雑化しており、スポーツ税務は一つの専門分野として確立されつつある。

B.日米租税条約は適用されるのか

日米租税条約には給与所得に関する規定と、スポーツ選手・芸能人に関する特別規定が設けられている。

一般の給与所得者については、14条(給与所得)が適用される。例えば、日本企業の社員がニューヨークへ3か月間出張し、日本本社から給与を受け取っている場合には、一定の条件を満たすことにより米国所得税が免除されることがある。

しかし、ワールドカップに出場するスポーツ選手については、17条(芸能人及び運動家)が適用される。例えば、日本代表選手がJFAから年間1,000万円の代表活動報酬を受け取っていると仮定する。そのうちワールドカップ期間中に米国内で行われた試合やトレーニングに対応する部分については、日米租税条約第17条に基づき、米国に課税権が認められる可能性がある。第17条は、芸能人やスポーツ選手については実際に活動が行われた国に優先的な課税権を認める趣旨の規定である。

すなわち、日本居住者であり、日本国内で報酬を受け取っている場合であっても、競技活動が米国内で行われる限り、米国課税が生じ得るのである。このように、一般のビジネス出張者には適用される租税条約上の免税規定が、スポーツ選手には適用されない場合がある点は、米国税制の特徴の一つといえる。

C.スポンサー収入への課税

近年のトップ選手の収入は、試合報酬だけではなく、スポンサー契約による収入が大きな割合を占めている。例えば、次のような収入が挙げられる。

・スポーツ用品メーカーとの契約

・飲料メーカーとの広告契約

・SNSを利用したプロモーション契約

・肖像権使用料

例えば、世界のLionel Messi(メッシ)のスポンサー収入(スポンサー契約・肖像権収入など)は、近年年間約7,000万ドルと推定されている。メッシの年間サッカー関連収入(給与・賞金等)は約6,000万ドルとされているので、広告収入の方がサッカー関連収入を上回る。想像しにくい水準であるが、いかにスポンサー収入が多いかを示す金額である。これらの収入が米国内での活動に関連すると判断された場合には、米国源泉所得として課税対象となる可能性がある。

もっとも、実際に課税対象となるかどうかは契約内容や所得区分によって判断される。また、所得の性質によっては給与所得ではなく、ロイヤルティ所得や事業所得として取り扱われる場合もある。その結果、適用される租税条約の条文や課税関係も複雑となる。

スポーツ選手個人だけでなく、スポンサー企業側も契約内容や所得区分について慎重な検討が求められる。

 D. IRSと国税庁の移転価格問題

 ワールドカップのような国際スポーツイベントでは、移転価格税制の考え方が問題となる場面も存在する。

例えば、日本企業が日本代表選手とのスポンサー契約を締結し、その広告宣伝活動を米国子会社が利用して米国内で販売促進に利用するケースを考えてみる。日本本社が日本代表選手に年間100万ドルのスポンサー料を支払い、その広告効果の結果として米国子会社の売上増加やブランド認知向上に大きく貢献している場合、日本本社と米国子会社との間で広告宣伝費の費用分担(Cost Sharing)やサービスフィーの負担が必要かどうかが論点となり得る。

日本の税務当局は、「米国子会社が広告宣伝上の便益を享受しているのであれば、一定の費用負担を行うべきではないか」と主張する可能性がある。

一方、IRSは、「スポンサー契約は日本本社のブランド価値向上を目的としており、日本本社が負担すべき費用である」と主張する可能性がある。このような見解の相違が生じた場合、IRSと日本の税務当局の双方が所得配分の修正を求めることとなり、移転価格税制上の紛争へ発展する可能性がある。

スポーツビジネスの世界で見られるこのような問題は、多国籍企業が日常的に直面する移転価格問題と本質的に同じ構造を有しているのである。

E.FIFAおよびスポンサー企業の税務

ワールドカップでは数十億ドル規模のスポンサー契約が締結される。日本企業が米国内で広告活動や販売活動を行う場合、以下の税務論点が発生する可能性がある。

・連邦法人税

・州法人税

・売上・使用税(Sales & Use Tax)

・源泉徴収税

また、活動内容によっては日米租税条約上の恒久的施設(Permanent Establishment: PE)の有無が問題となる場合もある。

特に近年は「Economic Nexus(経済的ネクサス)」の考え方が広く浸透している。米国内にオフィスや従業員が存在しなくても、広告活動や販売活動の結果として一定以上の売上高や取引件数があれば、州税申告義務が生じる可能性がある。ワールドカップを契機に米国市場へ進出する企業は、事前に州税リスクを十分検討する必要がある。

F.ワールドカップ観戦ツアーと企業税務

日本企業が顧客接待やインセンティブ旅行としてワールドカップ観戦ツアーを企画するケースも考えられる。その場合、次のような税務上の論点が生じる。

・交際費としての取扱い

・福利厚生費としての取扱い

・源泉徴収税の有無

・情報報告義務

などが検討事項となる。

特に役員やオーナーが家族同伴で参加する場合には、個人的な利益供与や私的支出とみなされるリスクも存在するため注意が必要である。

G.まとめ

2026年ワールドカップは単なるスポーツイベントにとどまらず、日系企業にとっては米国市場でのビジネス拡大の好機である一方、複雑な税務リスクを伴う重要な局面でもある。特に、マーケティング活動に伴う州税や経済的ネクサスの判定、スポンサー契約に関する所得区分や課税関係、移転価格税制への影響、さらには接待や観戦ツアー費用の適切な処理など、多岐にわたる論点について事前に整理し、適切なコンプライアンス体制を構築することが不可欠である。大会の熱狂は一時的であっても、その税務上の影響は長期に及ぶ可能性があるため、事前の十分な税務検討と戦略的かつ慎重な対応が求められる。

<本ニュースレターは、米国における一般的な動向や情報をご案内する目的で配信している。具体的なご質問やアドバイス等は専門家に直接ご相談下さい。>