会計税務情報 2021年11月24日号
Nagano Morita, a division of Prager Metis
新リース会計原則の実務‐基礎編
既に上場企業に適用されている新リース会計原則(ASC 842)が、2021年12月15日後に作成される年次財務諸表から、日本企業も含めたアメリカの非上場企業に適用される。暦年決算(Calendar Year)の会社の場合、2022年1月1日からの適用となる。これにより、US GAAPベースで財務諸表を作成しているアメリカの非上場企業は、リース会計処理の変更を余儀なくされることになる。
ここではリースの借り手側(Lessee)から見た会計処理の基礎的な枠組みについて簡単に説明する。
1. 旧ASC 840 vs 新 ASC 842の違い
従来のリース会計原則(ASC 840)は、比較的容易であった。つまり企業側にリース物件が存在する場合、4つの旧Capital Lease Criteriaのいずれかに該当する場合に限り、リース資産及びリース負債を計上し、残りのリース物件については、Operating Leaseとして、支払時の費用処理として取り扱った。企業の日常ではCapital Lease としてリース資産を計上することはむしろ珍しく、リース物件の多くは、Operating Leaseとして費用処理されていた。
一方、新しいリース会計原則(ASC 842)では、従来の会計処理とは大きく異なり、リース物件は、原則として、オンバランス(資産計上)することが出発点とする。すなわち、従来の(ASC 840)Capital Leaseが(ASC 842)Finance Leaseへと、従来のOperating LeaseはそのままOperating Leaseへと、基本的なリース分類はスライドするものの、新リース基準下では、原則として、リース物件は、全て資産計上される。
2.リースの判別
ASC 842では、原則、リースはオンバランス(資産計上)する。そこで、新基準下での「リース」とは何か。リースの定義は以下の通りである。
“A contract, or part of a contract, that conveys the right to control the use of identified property, plant, or equipment (an identified asset) for a period of time in exchange for consideration.”
ここで重要となってくるのは、
- There must be a physical identified asset.
- The lessee has the right to control the use of the identified asset.
の2つの要素を満たさなくてはならない。例えば、オフィス・リース、倉庫リース、コピー機リース、カンパニーカー・リース、トラクター・リース等は、この2つの要素を満たすため、定義上の「リース」に当てはまる。一方、ソフトウェアや、クラウド・メモリーの一定期間利用サービスについては、a.もb.も満たすことは困難と考える。よって、「リース」とはならない。企業側は、こうした利用サービスについて、一つ一つ「リース」に該当するかどうかを、契約書と実体を照らし合わせ、確認する作業が必要になる。
「リース」が契約ないし実体として存在することを確認次第、企業は、リース契約から発生する費用を3つの構成要素(Components)に分ける必要がある。
まずは、Lease Components(純粋なリース部分)及びNon-Lease Components(共益費、セキュリティ、クリーニング等)を、それぞれのRelative Stand-alone selling price (市場価値)の比率によって、按分配賦する。さらに、このいずれにも該当しないその他費用(Not a Component、保険、固定資産税等)については、Lease ComponentおよびNon-Lease Componentにそれぞれ追加的に費用按分し、最終的にLease Component(純粋なリース部分)を算出する。
ただし、実務上、このようにリース契約を一つ一つの構成要素に費用按分することは大変な作業を伴う。そこでASC 842では、簡易的な費用集計方法として、リース物件にかかる全てのコストを、Lease Componentとみなすことの出来るPractical Expedient Election(簡易措置の選択)を、Accounting Policy(会計方針)として選択できる道を設けている。
3.リースの分析
Lease Componentが判別したら、リースを3つの尺度から分析する必要がある。
A. リース期間の判断
リース期間とは、リース資産を使用できるNon-cancellable期間である。契約書に記述されている期間のほか、資産の特徴、企業の用途、市場の状況など情報を総合的に分析し、リースが終了することがReasonably Certain(9割以上の確信)であることの期限を合理的に判断する。例えば、毎月更新するオフィス・リースであっても、実際上、一か月以上は引っ越す予定がない場合が考えられる。このようなMonth-to-monthのオフィス・リースが終了する合理的な期間を判断しなければならない。このようにリース期間を判断することはHighly Judgmental(高度な判断)とされている。
なお、リース期間が、Commencement Date(リース実行開始日)から12カ月以内のものでBargain purchase option(割引購入オプション)が付与されていないリースは、Short-Term Leasesと定義され、会計方針の選択により、リース資産を計上せず、支払時に費用処理することを選択できる。この簡易的なアプローチは、一年以内にリースを解約することがReasonably Certainであるとの確信がなければならず、一年以内にリースが解約することがReasonably Certainでない場合、この選択を選ぶことは難しいとされている。
B. リース支払額の計算
リース支払額は、Fixed Payments(固定支払額)のみが含まれ、Variable Payments(変動支払額)
は含まれないことになっている。Fixed Paymentsとは、事前に把握できる規則正しい支払額であるが、毎年何%で上昇するfixed increase(規則的増加)のコストも含まれる。例えば、オフィス・リースの場合、毎年上昇する固定リース部分が含まれる。一方、共益費部分は、一年が終わった時点で実際にかかったコストと相殺され追加請求・還付調整されるのが通常であるため、Variable Paymentsとみなされ、リース支払額からは除外され即時費用処理として扱われる。
C. リース割引率の計算
リース割引率は、リース資産および負債の現在割引価値を計算するために必要となる。原則としてRate implicit in the lease (リースに内在する利子率)を用いる。しかし、このImplicit rateは、Lessor側がリースを通してどの程度の利益率を獲得するかの利率であるため、Lessee側では容易に算定できないのが通常である。そのため、次の手段としてIncremental borrowing rate(限界借入利子率)を用いる。これは、Lessee側が、仮にLeased Assetを借入資金によって購入しようとした場合の担保保証付・市場借入利子率となる。ただし、これも市中の銀行から担保保証付きの借入利子率の情報を入手することは、通常は困難である。
そこでASC 842では、非上場企業に限り、Rate implicit in the leaseを容易に決められない場合、リース割引率をRisk-free discount rateから選択できることとしている(Practical Expedient Election)。このRisk-free discount rateは、Federal Reserve Bank(連邦中央銀行)が公表している利子表から入手することができる。最も実務的な割引率と言える。
4.リースの分類
リースの判別および分析を経た上で、リースの分類が可能となる。
Finance Lease (旧Capital Lease)
以下の①~⑤のCriteriaのうち、いずれか1つでも該当すればFinance Leaseとなる。
① |
Lease termの終わりにリース物件のOwnershipがLessee側に移転する |
② |
Bargain purchase optionが付与されており、その行使が合理的に見込まれる |
③ |
Lease termがリース物件のuseful lifeの大部分(目安として75%以上)である |
④ |
Lease paymentsと借手が保証している残存価値のPresent valueが、リース物件のFMV(公正価値)のほとんどすべて(目安として90%以上)である |
⑤ |
資産が特殊な性質であり、リース期間終了時に、貸手側にとって代替的な用途がないと予想される |
ここで気づくかもしれないが、①~④は、ASC 840の4 つの旧Capital Lease Criteriaとほぼ内容は重なっている。新ASC 842では、これらに新しく⑤が付け加えられた形となっている。
Operating Lease
上記の1つも該当しない場合はOperating Leaseとなる。
5. まとめ
新しいASC 842の下では、Finance Lease (旧Capital Lease)及びOperating Leaseともに、原則的に、オンバランス(資産計上)処理となり、リース会計処理は企業にとって面倒な会計手続きとなる。自社のリース契約を判別、分析、分類し、新リース会計原則の適用に備える準備を整えることが各企業に勧められる。
上記について具体的なコンサルティングサービスを受けられたい場合、担当者まで直接ご連絡下さい。
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