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利益率の低い米国子会社の移転価格文書化について(2) 2017/11/04

会計税務情報 2017年11月号
永野森田会計士事務所

利益率の低い米国子会社の移転価格文書化について(2)

 

筆者は、国際税務及び移転価格の実務家として、主に日系米国企業の移転価格の文書化に携わって来た。本欄においても、米国移転価格税制につき、移転価格スタディ執筆者の視点から度々コメントして来たが、今月は、首題の通り、利益率が低かったり、赤字にあえぐ米国子会社の移転価格問題に再び触れてみたいと思う。尚、2015年8月にも同問題につき考察したが、この度は、米国ディストリビューターのケースに焦点を絞る。

 

 

1.IRSのInbound Distribution Campaign

IRSは、2017年1月31日、税務コンプライアンスの更なる強化の為の新プログラムを、Large Business and International (LB&I) 部門に設置した事、また、同プログラムにおける重要課題として、今後、外国資本による米国ディストリビューターの移転価格コンプライアンスつき、今まで以上に注力して行く事を発表した。‘Inbound Distributor Campaign’と題した当プログラムに関しIRSは、「外国資本によるディストリビューターの中には、彼らが施す機能、負担しているリスクにふさわしいだけの利益を上げるどころか、わずかばかりの利益しか上がっていなかったり、挙句の果てには損失を計上しているところもある」と断った上で、「独立企業原則に則り価格設定が為されれば、左様なディストリビューターの多くは、より高い利益を上げているはずである。(-中略-)今後は左様な問題に焦点を当てていく」と、米国ディストリビューターに対し、厳しい対応をしていく事を示唆した。

 

LB&Iは、大口の法人納税者を担当する部門であり、日本の国税局に相当する。連邦税法では、10Mドル以上の資産を有する法人が大口納税者とされ、LB&Iより税務調査を受ける。一方、それ以下の規模の法人や個人納税者は、Small Business/Self-Employed(SBSE)部門が税務調査の対応をする。こちらは、日本の税務署に例えられる。ただし、規模の点では、SBSE部門が担当すべき法人納税者であっても、外国関連者と取引があり、移転価格が問題になりかねる場合には、LB&Iが税務調査を担当する場合もある。従って、外国資本の米国ディストリビューターが税務調査に選ばれた場合には、その規模に関わらず、‘Inbound Distribution Campaign’の下、移転価格につき追及される事を想定し、日頃から準備していく事が必然となった。

 

 

2.米国ディストリビューターと移転価格税制

米国移転価格税制においては、一般に、外国資本による米国ディストリビューターは黒字運営されるべきという考え方がある。これは、グループの収益性、競争力に寄与する無形資産(トレードマーク等)を持たないディストリビューターの場合、左様な資産がもたらすハイ・リターンは得られない代わり、自らが施すルーティーン機能(=販社機能)に対する見返りを保証されるべきという見方による。多くの米国移転価格実務家は、米国財務省規則に登場する以下の下り(米国財務省規則1.482-3(c)(3)(ii)(A))にディストリビューターに対するIRSの姿勢が反映されていると捉える。

A reseller’s gross profit provides compensation for the performance of resale functions related to the product or products under review, including an operating profit in return for the reseller’s investment of capital and the assumption of risks.

上記下りでは、再販業者は、投下資本(及びそれに介在するリスク)に見合うだけの営業利益を上げるべきとしているが、米国税制における移転価格算定方法が、皆、均衡の概念(Equilibrium Concept)から発展したものである事を踏まえると、ここでいう利益とは、年毎の企業業績を映した会計上の利益ではなく、長期間における経済利益(EP)を指すと捉えられる。会計上の利益率が、企業の、特定の時点、期間におけるパフォーマンスをスナップショット的に斬るのに対し、経済利益率は、投下資産の長期的なパフォーマンスを表す。米国財務省規則1.482-3(c)(3)(ii)(A)は、左様な長期Profitを意識しているはすであり、長期スパンでは健全なリターンをもたらす投資であっても、短期スパンにおいてLossを生じる可能性が多分にある事を、移転価格実務家は認識すべきだ。事実、米国ディストリビューターが海外の非関連メーカー、サプライヤーとディストリビューション契約を結ぶ場合、契約に利益保証が盛られていない限り、ディストリビューターは損失のリスクを負うことになる。例え期限限定であっても、海外メーカー、サプライヤーの誰もが、成績が上がらない米国ディストリビューターに経費補填を申し出るとは考えにくい。留意すべきは、均衡の概念も、独立企業原則も、米国ディストリビューターが短期スパンにて損失を被ったり、低利益に苛まれかねない事を、本質的に否定するものではないという点である。前項で触れた‘Inbound Distribution Campaign’に見られるように、IRSが、外国資本による米国ディストリビューターの移転価格コンプライアンス強化に乗り出している今日、赤字や低利益に悩む米国ディストリビューターが如何なる対策を講じれるか、考えてみる。

 

 

3.実務レベルの対策

多少なりとも在庫リスクを抱えるバイ・セルディストリビューターの移転価格スタディを行うケースでは、CPM法を用い、ディストリビューターの営業利益率を比較対象会社のそれと比べる場合が多い。その際、ディストリビューターの利益率が比較対象会社の利益率と同水準にある事が確認出来た場合に、「納税者は米国移転価格税制にコンプライアンスしている」也結論付ける。つまり、如何なる基準でもって比較対象会社を抽出するかで、ディストリビューターに求められる利益率が大きく変更しうる。比較対象会社を抽出する際には、機能分析、市場分析を先ず行い、当該関連者間取引に関する、納税者の機能、リスク、及び納税者を取り巻く市場環境につき確認すると共に、左様なプロフィールにマッチした会社を、量的、質的スクリーニングを通じ選択する。

 

比較対象会社を、ディストリビューターの利益率の妥当性を計る為の物差しとして用いるCPM法において、利益率をベースに比較対象会社を選んでしまっては、スタディの客観性を維持する事は出来ない。しかしながら、多くの移転価格実務家が、利益率(例:粗利率、営業利益率)を、比較対象会社抽出の基準の一つに用いているのも事実である。典型的な例としては、スタディ対象期間(通例3~5ヵ年)において、一定年数以上利益が認められなかった会社については比較対象会社の選考から振るい落とすケースが挙げられる。継続企業の前提につき疑問がある場合を除き、利益率を理由に、無条件に会社を振るい落とすべきでない。単に赤字であったり利益率が低い事を理由に比較対象とすることを禁じたルールは財務省規則に存在しない。CPM法を用いたスタディにおいて、極端に利益率の高い、Outlier的な会社が比較対象会社となる場合があるが(通常、単に利益率が高いと言う理由では、会社を振るい落とす事はしない為)、利益率の低いOutlierについても、機能、リスク、及び市場環境等につき高い類似性が認められれば比較対象会社に含める事で、スタディ結果の妥当性は寧ろ高まる。

 

 

4.まとめ

この度始まった‘Inbound Distribution Campaign’の下、米国ディストリビューターの移転価格問題にこれまで以上に関心が集まると予想される。しかしながら、ディストリビューターであっても損失を被りかねないという一般論は、均衡の概念においても独立企業原則に則っても、的確である。比較対象会社抽出の過程で、利益率の低い会社を無条件に振るい落とすケースが見られるが、左様な処理は、スタディ結果の妥当性を損ないかねない。機能、リスク等の点で高い類似性が認められる会社については、利益率に関わらず比較対象会社に含めるべきだ。

 

 

【執筆者連絡先】Los Angeles Office河村(213-347-1129)

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