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2016年度米国大統領選挙における民主・共和両党の候補者の税制改革案比較 2016/08/04

会計税務情報2016年8月号
永野森田米国公認会計士事務所


2016年度米国大統領選挙における民主・共和両党の候補者の税制改革案比較


11月の大統領選挙に向けて、先月7月に共和党はドナルド・トランプ氏を、民主党はヒラリー・クリントン氏を大統領候補として正式に決定した。今月号のニュース・レターでは両大統領候補が掲げる税制改革案について比較をしたい。


1. 税制改革の目標


クリントン候補は課税の公平、現在法人関連の課税の抜け穴となっているコーポレート・インバージョン ※1関連の税法の修正、及び小規模企業の減税・簡素化を掲げている。一方で、トランプ候補は中流家庭の減税、税法の条文の簡略化、及びコーポレート・インバージョン対策等を掲げている。個別の対策は以下のとおりとなる。

※1 コーポレート・インバージョンとは会社を再編し軽課税国に親会社を移転させた上、各種の方法で米国での課税所得を減少させることを通して、税負担の軽減はかることを目的としている。



2. 個人所得税


(a) Ordinary Income

クリントン候補は現在の累進課税率 (10%か39.6%) を維持しつつ、課税所得が500万ドルを超える場合には4%の付加税 (Fair Share Surcharge) を追加するとしている。米国の高額所得者ほど、タックスプラニングにより節税対策を行っており、中流家庭の実効税率を下回ることもあることから高額所得者に公平な税負担を求める趣旨である。


トランプ候補は現在の累進課税帯を0%、10%、20%及び25%の4つの累進課税制度に簡素化することを掲げている。また、夫婦合算申告で所得が5万ドル (独身の場合2万5千ドル) 以下の場合は非課税とするとしている。さらに、現在は独身の場合と夫婦合算の場合で適用される税率が異なるが、これを同率の税率制度に変更し、独身の場合不利となっている税率の差を無くすとしている。



(b) Alternative Minimum Tax (AMT)

AMTとは、税務上の各種控除に一定の制限・調整を加えて算出した所得額に一定の税率 (個人の場合原則28%) をかけて算出される税金である。このAMTと (a) のOrdinary Incomeに対する税額を比較して、いずれか高い方を納税する。Ordinary Incomeに対する税務上の控除制度を多用して実効税率が極端に低下するのを防止する制度である。クリントン候補は現在のAMT税制に追加して、100万ドル以上の所得がある場合には富豪のバフェット氏が提唱しているバフェット・ルールを導入し、30%の課税を行うとしている。これに対してトランプ候補は税法簡素化の一環としてAMTの廃止を提案している。



(c) Net Investment Income Tax (NIIT)

NIITは、オバマケアの財源確保の一環として2013年に導入された税金であり、特定の投資所得や個人所得が25万ドル (夫婦合算申告の場合) 以上あるときに3.8%の課税が行われる制度である。NIITについてヒラリー候補は継続としているが、トランプ候補は廃止を提案している。



(d) Long Term Capital Gain

クリントン候補は長期の投資が企業を成長させるとし、短期的な投資を抑え、長期投資を推進すべきとしている。このため、長期キャピタル・ゲインの扱いの変更を提唱している。つまり、これまで1年超保有した投資財産から発生したゲインは一律に長期キャピタル・ゲインとして0%、15%又は20%の課税が行われてきたが、これを1年超2年未満の場合は、最高税率を1年未満の短期キャピタル・ゲインと同じ39.6%とし、毎年徐々に税率を下げ6年超の最高税率を20%にするとしている。実際にはキャピタル・ゲインには上記 (c) のNIITも加算されると共に、所得が500万ドルを超える場合はさらにFair Share Surchargeの4%も加算されることになり、最高税率は保有期間1年超2年未満の場合で47.4% (39.6%+3.8%+4%) 、保有期間6年超の場合で27.8% (20%+3.8%+4%) となる。これに対し、トランプ候補は1年超の長期キャピタル・ゲインについては0%、15%又は20%と現状と同じ税率設定としている。



3. 法人税


クリントン候補は特に法人税に関しては改正案を公表していないが、トランプ候補は法人税の最高税率を35%から15%に引き下げることを提案している。これによりコーポレート・インバージョンも無くなるとしている。


4. 遺産税


クリントン候補は遺産税を2009年度時点の税率や基礎控除に戻すとしている。具体的には最高税率を現在の40%から45%に上げ、基礎控除額が現在の545万ドルから350万ドルに下げるとしている。これに対し、トランプ候補は遺産は、所得税を通じて既に一度課税されており、アメリカン・ドリームの実現の妨げとなっているとして遺産税の廃止を求めている。



5. まとめ


クリントン候補は全体的に富裕層への課税の強化を打ち出しており、それに対してトランプ候補は個人、法人問わず減税政策となっている。トランプ候補は減税政策に伴う減収は主に超富裕層の個人所得税の所得控除項目の制限等からの増収、米国企業の海外に留保している現金や所得に対する課税等により補填するすることができ、財政への影響は無いと主張している。もっとも、クリントン候補のウェブサイトにはトランプ候補の税制改革により、税収は10年間で12兆ドル不足すると指摘している。以上のように、税制面からも両候補には大きな政策の違いが認められる。また、両候補とも税制改革を提唱しているため、いずれの候補が大統領になったとしても現行税制に与える影響は大きいと考えられる。

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