会計税務情報2008年6月号
永野森田米国公認会計士事務所
税務申告書作成者に対する開示義務
現在米国議会においては、Attorney, CPA, EA(米国税理士)等、有償にて税務申告書を作成する者に対する開示義務の緩和に向けての審議が行われている。この案件は、既に米国下院を通過した(H.R. 6049)。この背景には、National Association of Tax Professionals (NATP)や、American Institute of Certified Public Accountants (AICPA)等、税・会計の専門家団体による働きかけが、少なからずある。開示義務規定の緩和は、国の徴税能力に影響を与えかねない。今、何故専門家団体が規定緩和を求めているのか、また規定緩和によりどのような社会的メリットがあるのか、考察する。
1. 申告書作成者への開示義務の現状
税務申告書作成者は、申告書作成の際、クライアント(納税者)から提出された数字の正確性につき確認をする義務はないが(数字の信憑性につき、明らかに問題がある場合を除く)、提出された数字を税法(内国歳入法及び関連の規則、通達等を含む)や判例に則り適切に処理する責任を負っている。この際、税法の解釈につきクライアントとIRSとの間に隔たりがある場合、税務申告書作成者は以下の対応をする旨求められている。(内国歳入法第6994条)。
<申告書にて用いられた法解釈の妥当性の度合いと税務申告書作成者の対応>
2007年12月31日以前に提出される申告書
• 税務裁判が開かれた場合に、クライアントの法解釈が正しいと認められる確立が33%以上あると判断される場合には、当該法解釈の開示の必要なし。
• 税務裁判が開かれた場合に、クライアントの法解釈が正しいと認められる確立が12.5%以上33%以下であると判断される場合には、当該法解釈の開示をForm 8275若しくはForm8275(R) を用いて行う(同Formを単独でIRSに提出するとともにDuplicateを申告書に添付する)。
• 税務裁判が開かれた場合に、クライアントの法解釈が正しいと認められる確立が12.5%に満たないと判断される場合には、当該法解釈を申告書にて用いない。
2008年1月1日以降に提出される申告書
• 税務裁判が開かれた場合に、クライアントの法解釈が正しいと認められる確立が50%超である旨判断される場合には、当該法解釈の開示の必要なし。
• 税務裁判が開かれた場合に、クライアントの法解釈が正しいと認められる確立が25%以上50%以下であると判断される場合には、当該法解釈の開示をForm 8275若しくはForm8275(R) を用いて行う(同Formを単独でIRSに提出するとともにDuplicateを申告書に添付する)。
• 税務裁判が開かれた場合に、クライアントの法解釈が正しいと認められる確立が25%に満たないと判断される場合には、当該法解釈を申告書にて用いない。
申告書にて用いられた法解釈につき正しいと認められる確立が33%以下であると判断される場合には、納税者に対しても同様の開示ルールが適用される。
開示ルールが守られない場合、税務申告書作成者、納税者共ペナルティーの対象になるが(注)、2008年1月1日以降開示義務にギャップ(50% VS. 33%)が生じた為、税務申告書作成者-納税者間においての利害衝突の原因となっている。
2. 納税者による"Opinion Shopping"
【例】
A(納税者)は、確定申告書(Form1040)の作成を従来B(CPA)に依頼してきたが、今回控除額の妥当性につきBがForm8275による開示を提案した為、提案を断り、C(別のCPA)に作成を依頼した。Cは、控除額の妥当性について開示をしないまま、AのForm1040を作成した。
上記ケースは、納税者による”Opinion Shopping”の典型的な例である。税務申告書作成者にとっての開示義務の水準(50%)は、納税者のそれ(33%)より高い為、前者が開示を提案しても後者は良しとしないことも、考えられる。開示をすれば、当局の関心を引くことになるからだ。IRSは、税務申告書作成者のClient-Relationを念頭に置いたガイダンスを2007年12月31日付けでリリースしたが、これは一時的措置であり、今月中に発表が予想されるProposed Regulationにおいて同様の措置が盛られる保証は無い。
3. 開示義務の緩和要求
NATP(National Association of Tax Practitioners)やAICPA(American Institute of CPAs)が税務申告書作成者の開示義務水準の緩和を求めているのは、税務申告書作成者-納税者間に生じた開示義務の不均衡により、両者間に生じた利害衝突は、税務申告書作成者の顧客関係をこじらせるのみでなく、納税者によるComplianceの妨げにもなっている(例:”Opinion Shoppingの横行“)という考えに基づいている。
(注)このうち、納税者に対するペナルティーは、追徴額が$5,000(C corporationの場合は$10,000)を超えた場合に、過少申告加算税(Accuracy-Related Penalty)という名目で課せられる。
更新日: 2008年06月07日

