会計税務情報2008年5月号
永野森田会計士事務所
米国税制下におけるタックスシェルターへの経済的実質主義適用について
日本における租税に関する最も基本的な原則の一つは、日本国憲法にも掲げられている、何人も法律の根拠がなければ、租税を賦課されたり、徴収されたりすることがないとする、「租税法律主義」である。これに対し、米国では大原則として同じ租税法律主義を掲げるものの、経済実態に即して税法をフレキシブルに解釈したり、弾力的に租税のルールを変更するという「経済的実質主義」に近いと見られる立場を取っている。この違いは興味深く、今回は、最近の米国におけるタックス・シェルターに対する連邦判決裁判所(U.S. Court of Federal Claims)の判決を通じて、この米国における「経済的実質主義」を垣間見ることとする。
1. タックス・シェルターとは
米国でのタックス・シェルターとは、経済実態(Economic Substance)のない行為を組み合わせて、税法上の所得を著しく減少させる手法及びそれを目的とした商品のことをいう。脱税とは異なり、あくまで法規定上では形式上合法とされる租税回避手法の一つである。
日本の税法では租税法律主義という憲法上の大原則の下、法規定を離れた経済的目的や効果に即して課税を行う経済的実質主義の適用は原則として認められないとするのが通説とされる。租税法律主義を厳格に解釈すれば、根拠規定がない限り課税することはできない。
その点、昨年末、タックスシェルターに対する経済的実質主義の代表的適用例となる「Son of BOSS」と呼ばれる取引に関する事例について、米国内国歳入庁IRS勝訴の判決が連邦請求裁判所において下された。
2. ”Son of BOSS”
米国で”Son of B..”と聞くと、罵倒する際のスラング用語のように感じられる。しかし、これはSon of BOSSである。BOSS(Bond and Option Sales Strategy)というタックス・シェルター取引から派生した、別のタックス・シェルターを意味している。スラングのSon of B..にひっかけて命名されたような印象は受けるものの、これでも代表的なタックス・シェルターであり、税法の専門家の間では広く知られている。そのSon of BOSSに対する判決事例の概要は、以下のようなものである。
3人の兄弟Ervin Brothersは、1999年に彼らの所有していたケーブルTV事業会社を売却して得た4千万ドルの利益を得た。約4千5百万ドルのユーロオプションをAmerican International Group(以下、AIG)より購入(Purchased Call Option)し、別のユーロオプション(Sold Call Option)を約4千455万ドルでAIGに売却。実際に支払われたのは差額の約45万ドルであった。
彼らは上記のPurchased Call Option, Sold Call Optionの現物出資と約22万5千ドルの投資によりJade Trading, LLCを設立した。但しSold Call Option約4千455万ドルについては、オプションが実際に買手に行使されるまでは損失とならない税務上の偶発債務として、税務上の彼らのLLC持分価額に反映されなかった。
この後彼らはLLC持分を償還し少額の外国通貨と株式を受け取ったが、Sold Call Optionについては税務上の偶発債務であるためLLC持分償還に伴う損失の計上には算入せず、約4千5百万ドルの損失が生じたと主張した。
判決では、上記のスプレッド取引(コールオプションの買いと売りを同時に行う取引)は投資目的ではなく租税回避の目的で考案されたもので、実際の支出額に比して税負担軽減効果があまりにも巨大であることを理由に、経済的実態を欠いたものであり、Ervin 3兄弟のJade Trading, LLCに対する税務上の持分価額は約22万語5千ドルに引き下げられるべきであったとされた。
本件においては、AIGを含めた複数のアドバイザーに百万ドル以上の金額が支払われていたことも指摘されている。Son of BOSS取引のようなキャピタルゲイン相殺のための取引については、本件より単純な形式のものが考案可能であるが、税務当局に指摘されるリスクを出来るだけ回避するため、本件のような税法規定の抜け穴を利用した複雑な取引が考え出されることになる。
3. 租税法律主義 vs 経済的実質主義
租税法律主義を貫けば、本件のような表面上税法規定に則った租税回避目的の法形式が見過され、通常の法形式によった者との間に不公平が生ずる。その反面、経済的実質主義を優先すれば租税法律主義との整合性が問題となる。
日本においても、真実の課税を離れ法律関係を再構成した上で課税が行われる事例が多くあり、整合性を欠くとの批判がある。一方コモンローとしての米国税法では事例に応じて経済的実質主義が適用されることに整合性があると考えられる。
Son of BOSS 取引については、納税者のみならず、税務申告においてキャピタルゲインとロスとの相殺による租税回避手法をマーケティングした人々も今後刑事罰の対象となるとの警告がIRSから発せられた。
自由主義義を国是とするアメリカにおいてはタックスシェルターそのものが否定されるわけではないが、表面上税法規定に則った租税回避であっても米国税務当局による追徴課税のリスクを十分検討した上での税務上の判断が重要である。
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更新日: 2008年05月10日

